一番星

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 夜は何時まで経っても暗く、今が何時ごろなのか、あとどれくらいでアサヒが出るのか、ヴァルハイトには見当もつきません。この砂の大地にはヴァルハイトとアイザムしかいませんから訊く人もおりません。  どれほど歩いたでしょうか。ふと左頬がぶるりと震えて首を振ると、左側から音もなく近づいてくる何かが感じられました。ヴァルハイトは急に怖くなりました。その間にもざわざわと風が荒れ、視界が一気に砂と化します。目を少しでも開ければ網膜に細かい砂が入って目を傷つけられる。ヴァルハイトは目をつむったまま必死に兄の名前を呼びました。 「アイザム、アイザム!」  手綱をつかんでようやく体を起こせている状況で何度も叫びましたが、兄からの返答はありません。風が体をえぐり、砂が容赦なくヴァルハイトを殴りつけます。  突如現れた嵐が収まると、何事もなかったように再び静かな夜が戻ってきました。ところが、ヴァルハイトの前を歩いていたアイザムの姿が見えません。彼の乗っていた駱駝もともに消えており、足跡はすぐ目の前でぴたりと途絶えているのです。本当に一人になってしまった。背中をなぞられる様な悪寒を感じて必死に兄の名前を呼び続けました。しかし、ヴァルハイトの声はすぐに喉が枯れてとても遠くまで響きません。  どうすればいいのだろう。もしかしたら先ほどの嵐がアイザムを連れ去ったのかもしれない。助けに行くより、ここで待っていた方がいいのかもしれない。  ヴァルハイトは駱駝から降りようとしますが、駱駝はさも気にしていない様子でのそりのしりと先へ進みます。 「アイザムが消えてしまったんだ。どうか降ろしておくれ」  アイザムは懇願しますが、睫毛が長く眠たそうな駱駝には聞こえないのか、足を休めるそぶりを見せません。  ヴァルハイトは駱駝に苛立ちますが、背の高い駱駝から飛び降りれば怪我の一つでは済まないことは理解しています。さらに下は底の知れない砂の山です。無理に降りたら最後、そこから動けなくなることもあります。 「君は本当に薄情な奴だね」  ヴァルハイトは駱駝に悪態をつきました。彼にできることは今はそれくらいだけだったのです。
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