一番星

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 夜は雪山にいるかのように寒いのに、日中は昏倒しそうになるくらいの暑さです。暑さは過ぎると汗もかかず、体中が麻痺してきます。初めは声の限りアイザムを探していたヴァルハイトでしたが、次第に声も絞り切り、息をするのがやっとでした。  きっとアイザムはあの嵐にやられた。もう戻ってこない。いつしかヴァルハイトの溶けそうな頭の中でそんな風に整理されていきました。そして、自分もこのままでは長くは持たないし、生きるのが無駄なように感じました。  しかし、食事も水も摂っていないヴァルハイトは駱駝の背から落ちて死ぬことすらできません。駱駝のコブに体を預ける様にして乗るヴァルハイトは死ぬこともできない自分が醜く、苦しくて悲しくなりました。しかし、暑さのせいで涙すら出てきません。それでも胸はさらに苦しくなります。 「どうか止まっておくれ。僕を死なせてくれ」  もちろん駱駝は聞く耳を持たず、ゆっくりと先へ歩いていきます。  また凍える夜が訪れました。寒暖差の激しい砂漠はヴァルハイトの体を体力的にも精神的にも削っていきます。すっかり肉の落ちたヴァルハイトはきつくストールを巻いても体の震えが止まりません。涎は固まって口周りに張り付いています。頭上の夜空はあの日と変わらず星が瞬いているのにヴァルハイトの心は何も感じません。なぜまだ生きているのだろう。僕はどこへ向かっているのだろう。ぼんやりとした頭で考えていたヴァルハイトは思い出したように顔を上げました。小さな駱駝の先に大きく輝く星が一つ見えます。ヴァルハイトの固まった口から歌がこぼれました。それはあの夜、アイザムが歌っていた曲です。久しく声を発していないせいで途切れ途切れです。それでもヴァルハイトは歌い続けました。それだけでアイザムがさも隣にいるように感じることができました。
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