ひこうき雲を追いかけて

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 兄が家を出て行ったのは、難病を患っていた父さんが亡くなった年だった。 「これからは俺たち二人で母さんを守ろう」と約束したし、大学は家からでも通えなくはない距離だったから、ずっと兄は隣にいてくれるものだと思っていた。夜遅くまでパートをしている母さんの負担を軽くするためにも、二人で力を合わせて頑張ろう、なんてカッコいいことを言っていたのに。  正月だけ、兄は線香をあげに帰ってくる。帰ってくる度に昔はふっくらしていた頬がやつれて、疲れているくせに無理して笑おうとする。「仕事を頑張っている」と毎度言っているが、仕事よりも母さんを大事にしろ、と言いたい。  父さんだって仕事のし過ぎで自分の身体を顧みない結果、手遅れになってしまったんだから――なんてことを思いながら文集の埃をほろっていた時、母さんが珍しくノックせず部屋に入ってきた。  兄が仕事中に倒れて、病院に運ばれたという連絡が入ったらしい。  
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