ひこうき雲を追いかけて

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 兄と同じ会社で働いているという人から連絡が入り、母さんは長い髪を振り乱しながら病院へ向かった。ただ、倒れた理由が過労によるものらしく、命の別状はないとのこと。数日間の入院が必要とのことで、俺は兄のアパートへ着替えを取りに行くことになった。いつも使っているバッグから兄の住む家のスペアキーを取り出した母を見て、もしかして俺の知らないところで二人は会っているのかもしれないと感じた。  驚いたことがもう一つある。兄は、すぐ隣の駅に住んでいた。  こんなに近くにいて、こんなところに住んでいるくらいなら、実家に帰ってくればいいのに。  兄が今住んでいるアパートを見て、一番最初に感じた正直な気持ちだ。着替えを取りに来たものの、洋服も家具も極端に少ないため、家にある物すべてを鞄に入れている気分だ。 「一生懸命働いているような、そんな暮らしぶりではないな……あれだけ正月は仕事人間アピールしてるくせに、実際大した稼ぎじゃないんだろうな」  結局兄は、楽な方を選んだんだ。母さんのサポートを俺に任せて、自分は気ままに働きながら適当に生きて、正月だけは得意気な顔して帰ってきて。兄はきっと、なにもかもが面倒になって夢も捨ててしまったんだ。
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