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荷物をまとめた後、ふと部屋の中央にぽつんと置かれた粗末なテーブルに目を向けると、切手の貼られた1通の茶封筒が置いてあった。宛先には『柴咲 大智様』と、丁寧で見覚えのある懐かしい字が書いてあった。
ダイニングテーブルに2人並んでテスト勉強をした時よく見た、几帳面な兄の姿を鏡映しにしているような字だった。
封はされていない。どうせ自分に届くものだし、テレビもない部屋に監視カメラがあるはずないし見てしまおうか。三つ折りされた紙を摘み出そうとした丁度その時、ズボンの後ろポケットに入れていた携帯電話が鳴り、身体がギクッと固まってしまった。
母さんからの電話だった。容体が急変でもしたのかと心臓が一瞬縮まったが、普段と変わらない穏やかな声色を聞いて安心した。
『着替えは見つかった? 理空、意識がさっき戻ってね。本人は笑ってたけど、本当に心配かけさせられたわぁ』
母さんの言葉を聞いて、ヘラヘラした頼りない笑顔を見せる兄の顔が脳裏に浮かんだ。
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