1.神様にとっての神様

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1.神様にとっての神様

 皆様初めまして。私の名は狐乃音(このね)といいます。  見た目は小さな子供。けれど人の体に狐の耳と尻尾がついているので、特別目立つ子なのではないかなって思います。普通の子にはそんなもの、ついていませんからね?  稲荷神……つまりは狐の神様。それが私の正体なのです。こんなにちっちゃくて幼くて、やることなすことドジばかりな私ですけれども。  威厳なんてどこにもなくて、とてもではありませんが神様だなんて偉そうなことは言えません。本当にもう、何も知らない子供と同じなんです。だから私は、神様として敬われたりされるのがとても苦手です。  むしろ私にとって神様とは、お兄さんのことです!  あ、ああでもその違うんです! お兄さんと呼ばせてもらっておりますが、あの方は私にとって本当のお兄さんではありません。いつも私の面倒を見てくださる、とてもお優しい方なのです。そんな方を私が『お兄さん』と勝手に呼んでるだけなんです。  実は私は長い間、とあるお屋敷の社に祀られていました。  それは今からずっと大昔のことです。  お屋敷と、そこに住まわれているご家族を守って欲しいと、そんな純粋な祈りを込めて小さな社が造られて、いつしか私は自然に誕生していました。気がついたら意識があったといいますか、うまく説明できませんが、そんな感じでした。そのころはまだ実体となる人としての体がなくて、おばけといいますか魂といいますかうぃるおうぃすぷといいますか、とにかくゆ~れいさんみたいなものでした。  そのお屋敷の若い家主さんは毎朝のように社の前にやってきては、手を合わせてお祈りをしてくださいました。  家内安全。みんなが悲惨な事故や痛ましい事件に巻き込まれることもなく、病気に苦しむこともないようにと、優しい思いが私にも伝わりました。  そうして家主さんは決まって美味しそうなお揚げをお供えしてくれて、いつの間にか社の柱に括り付けられてた鈴を、お祈りの後に鳴らしていました。  狐の神様に知らせる鈴の音。  ちりんちりんと小さく鳴る。  狐乃音。  ……きっと家主さんが無意識のうちに、私に名前をつけてくれたんだと思います。  かしこまりました。皆様に幸せが訪れますように、一生懸命祈りますね。  目の前にいても、私の声は家主さんには聞こえることはありませんでした。  けれど、私が祈った効果があったのでしょうか? 若かった家主さんがお爺さんになって亡くなるまで、そのお屋敷の皆さんは無病息災であったそうです。亡くなる頃の家主さんは相当な高齢で、大往生と言われるほどの長生きでした。  お別れの時は私にとっても、変化の訪れでした。  家主さんが亡くなったことによってそうぞくというものが発生して、家主さんのお子さん達は広大な土地や立派な建物を手放さざるを得なくなったとかで。その余波で私の依代(よりしろ)であった社も、お屋敷ごと壊されてしまったのです。  最初は動物の狐の姿に、いつしか人間の子供の姿に私は変化していって、わけもわからないまま街の中を彷徨い歩きました。一晩、二晩……三晩くらいぶっ続けで、足が棒になるまでです。  お腹も空いて動けなくなって、暗い路地裏で私は倒れ込んでしまいました。  ああ、私はここで死んじゃうのかな。  暗闇が世界のすべてを包み込んでいきます。誰も知ってる人がいない街。冷たいアスファルト。寂しくて悲しくて泣きたくなっちゃったのに、疲れすぎて涙すら出なくて。私はそのまま眠るように意識を失いました。  そんな、心の底から絶望しきっていた私を救ってくださったのが、お兄さんなのでした。
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