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18.悲しさを乗り越えて
朝。
窓の外には眩しい太陽。とってもいいお天気なのだと一目でわかります。
涼しげで爽やかな朝なのに、私の気持ちはひどく落ち込んでいます。
「お姉さん……」
お布団の上には一枚の紙。
人の形に切り取られたそれは、お姉さんの魂の拠だったもの。魂が抜けた今、ただの紙に戻ってしまいました。それがたまらなく悲しく感じるのです。
「狐乃音ちゃん、おはよう」
「お兄さん。おはようございます」
「悲しいんだね?」
「はい。そして、寂しいです。……泣いたりなんてしたら、お姉さんを悲しませちゃうってわかってるのに」
情けないことに、涙がこぼれてしまいます。私の頬をつつ、と一粒流れ落ちていきました。
「あ……」
見かねたのか、お兄さんは私をきゅっと抱きしめてくれました。
「ごめんなさい。お兄さんだって悲しいですよね。それなのに私は……」
「うん。すごく寂しいよ。……でもね。狐乃音ちゃんのおかげで美結ちゃんとまた会えて、たくさんお話することまでできたんだ。だから、すごく嬉しかった」
亡くなった人とは二度とお話をすることができない。お兄さんはお姉さんとのお別れの時からずっと、その現実を受け入れてきたのです。
私はお兄さんに頭を撫で撫でしてもらいました。とっても優しくて、嬉しいです。
「狐乃音ちゃん。本当にありがとう」
そうして私はしばらくの間、お兄さんに甘えたのでした。
お姉さんはおっしゃいました。
私の式神を依代にしたことで、私の気持ち……感情がなんとなくだけど、わかったよ。お兄さんが大好きなのだということも、ものすごく伝わってきた。不思議なことに、なんだか私は貴方の……一部になったような気がした。と。
だから……ね。
すっごく可愛い狐ちゃん。
もう一人の、私。
お兄さんのことを、よろしくね。
そんな風に私は、お姉さんからお願いされたのでした。
二人、楽しく生きていってねと。
「うきゅ」
涙を拭って。
大好きな人に抱きついて。
たくさん撫でてもらって。
「めそめそしてたら、いけません」
上目遣いでお兄さんを見つめて。
「お兄さん」
お兄さんとお姉さんに、いっぱいお話してもらいました。
でも、まだまだもっともっと。大好きな人のことを知りたいのです。
強く、そう思ったから。
だから私はお兄さんに、お願いをしました。
「貴方のことを、もっと……」
教えてください、と。
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