Middle sickness

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白い壁 真っ暗な穴 一つ二つならまぁ構わないとして 四つは流石に許されないか 借家ではないが 持家でもない 寧ろ 自分の家であれば 無理にでも硬いところを探して くらいの セコい冷静さも発動したろうに Hanesの白Tと おしゃれという概念に無条件に 拒否反応を示し、 イオンの二階で特価で購入した、 綺麗に裾の上げられたノンウォッシュのジーパン 4900円くらいしたかな 思い返してみて、ロックな事だと片眉が下がる 寒い 兎に角寒い ホームセンターで 家庭用のモルタルを買ってきた 「汚れてもいい服を着てご使用下さい」 残念ながら 汚れてもいい服は 我が家の箪笥には存在しない 物理的にも 経済的にも そんなスペースはない 比較的大丈夫な組み合わせを選んだつもりだが 季節的には大丈夫ではないらしい 「室内では窓を開けてご使用下さい」 メーカーの想定の範疇に 新年早々 壁にキックするような情緒は 含まれないだろう テレビでは チャラい天気予報士が 「今年は暖冬です」 などと スキーに行けない事を殊更嘆いていたが 結構な事ではないか 真冬に わざわざ都会を離れ 雪の降る中 自発的に雪上で滑る などという大胆な行為は とてもじゃないが 正気の沙汰ではないと思っている そもそも 「暖冬」とは誤用ではないのか この季節を暖かいと思った事など 一度たりともないのだから 気象庁だかの偉い人は 「いつもよりは気温が低くない冬場」 に該当する もっと的確な言葉を 寝る間も惜しんで考えるべきではないか 文系不要論は その後で考えることにして あの少女はどうしているだろうか 遠い国の 無垢で利発な少女が 十二単のように重ね着をする姿を想像し 少し口角が上がる 地球温暖化 結構な事ではないか 等と考えるのは 自分が馬鹿だからだろうが なぜ馬鹿なのかは 理解できていないし、納得もいかない 電気代も高い事だから 皆んなで協力して温暖な地球を! 等と考える事はよくない事だ と自分に言い聞かせた時に あぁ、だから自分は馬鹿なのかと 納得がいった 大人しいタイプでもないが 比較的真面目な学生時代 口が達者で 人気者の 優等生 「お父さんに聞いていた通りの賢い息子さんね」 …違う 父親の愛人に抗議の電話をさせられた挙句 顔も知らない 初めて話す人間に 嫌味たっぷりに褒められた 「お前を知っているぞ」 と 「だけどね…」 語尾の背後に 反語的な 蔑むような 強い意志を感じ 電話越しに 身体が仰反る 真面目な奴の 不真面目な結果 …違わないか お前もその「不真面目な結果」の一つ お前も「不真面目な結果」を産むのだ 「壁を殴ってはいけません」 「壁を蹴るのはもっといけません」 書いておいてくれればいいのに 「最悪の場合、壁に大きな穴が空いて、酷く後悔し、貴方や周囲の人の健康を害する恐れがあります」 書いておいてくれればいいのに それにしても 大きな穴だ 直径にして 50cmはある 空洞 何か格子のようなものや 断熱材のようなものが 中にあるかと思ったが 何もない どこの家もこうなのか それとも 施工業者の手抜きの産物か 補修テープを貼って モルタルを塗れども塗れども 穴は埋まらず モルタルを塗り重ねると その重さで ダラリと流れ落ちる 賽の河原 つまりは地獄だな 30分で諦めて 上からガンダムのポスターを貼ってみたら 意外と悪くない事に 寧ろ苛立ちを覚えた 「そういうことじゃないねん!!」 今の自分の境遇で 誠に不謹慎とは思いながら 「マイホームを買おう」 と思った 壁の中が 空洞でない しっかりとした 暖かい家を そういえば 大人になる前は どうやって 頑張っていたのだろうか 思い出すところから 始めようか 風が冷たい 壁は脆い 「僕は、レンガのお家を建てるよ!」 背中越しで 声がした 「そりゃあ、随分と骨が折れるな」 振り返らないようにして 小さく呟いた
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