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「お人よしだなー、オマエも」
隣に立つ知念が言った。
少し先を歩く二人の背中を見ながら、私は「いいんだよ、今はこれで」と言い返す。
「オマエがいいんならいいんだけど。オレもタッキーにフォームを教えながら、自分のフォーム見直すきっかけにもなったし。オレ、今日ベスト更新したんだぜ」
「それはよかったね」
「ココロがないなぁ」
「教えてくれたことは感謝してる。きっと滝川は次は記録出すよ」
私の声に、知念はため息をついた。
「でも、そしたらあいつは、あの岡野って先輩をますます追いかけるんだろ? オマエがせっかく岡野から滝川の『バラバラ』の意味を聞き出したのに、タッキーがオマエに感謝する日こないぜ? いっそオレが言おうか? 実は村松がさー……」
「知念」
「ん?」
「余計なこと言ったら許さないから」
「怖っ。村松がそれでいいならいいんだけどさ」
知念が私の名を呼んだ。
総体予選の後、私は、岡野さんから滝川の『バラバラ』の意味を教えてもらった。快く教えてくれて、「滝川のことよろしくね」と言ってくれる優しい人だった。
短距離トレーニングで改善できると分かったので、同じ中学だった知念に頼んだ。知念の協力もあり、助走の改善点も見つかった。
この先、滝川が結果を出せるようになれば、岡野さんをますます追いかける。そんな滝川を私は追いかける。
なんとも悲しい追いかけっこだ。
それでも、私は滝川にうまくいってほしい。次はNMを抜け出せと思っている。
それでも心のどこかで、いつかは振り向いてくれないかな……なんてことも正直思っている。
いまのところ、その兆しもないけれど。
もう二人の後ろ姿は見えなくなってしまっていたが、私もまた足を進めた。
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