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中学でも陸上部だったけれど、高校でも続けるか、正直僕は悩んでいた。
入学後の仮入部期間で、陸上部に見学には行ってみたけれど、
「あー、幅跳びやってる奴はウチはいないんだよね」
と先輩に言われてしまった。
誰も先輩もいない環境でやっていくのはちょっとなー、小学校のときにやっていたサッカーでもしようかなと葉桜の見える電車に乗りながら考えているときだった。
「あれー、滝川じゃん」
その声を聞いた瞬間、頭の芯に雷が落ちたような衝撃が走る。
声の主は、岡野美空先輩だった。
同じ中学出身の1学年上の女性の先輩だった。岡野先輩も走幅跳を専攻していて、僕は岡野先輩から助走の入り方、踏み切り時の目線、空中での動作、そして着地など基本的な動き方を教えてもらった。
「久しぶりー。……ってその制服は青城南?」
岡野先輩は僕を上から下まで見ながら言った。
「あ、はい。そうです」
「勉強、頑張ったんだねー」
一年振りぐらいに会う岡野先輩は髪型が変わっているせいか、大人びたような気がした。そんな先輩に話しかけてもらえるのは嬉しかった。
「高校でも陸上やる?」
「え、あ」
「私が中学ん時に教えたのって滝川しかいないんだからさ、続けてくれてたら嬉しいな」
岡野先輩は僕の背中を軽く叩いた。
別に痛くもない、軽いものだったが、それが何か大きな後押しにでもなったのか、僕は、
「はい、高校でも陸上やります」
と即答してしまっていた。
たぶん、僕は、バカなんだと思う。
たぶん、僕は、岡野先輩が好きだ。
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