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一回目はファールだった。
走幅跳は三回の試技がある。三回の記録で一番よい記録が参加者の上位十二名に入れば四回目から六回目までの決勝に挑むことができる。
まずは上位十二名を目指すことになる。
その一回目をファールしてしまった。
あと二回あるのだから、そこまで気にすることではない。
ファールになったのは、踏み切り板をつま先が超えてしまったからだ。
一度、ファールしてしまうと、「次は気をつけよう」とばかり考えていると、助走のスピードが乗らなくなる。
中学時代、岡野先輩にも
「ファールを気にして、下を見て走ってたら記録は伸びない」
と言われたことがある。
気持ちを切り替えなければいけない。
大丈夫、ファールになったこと自体は中学の頃だってあったことだ。切り替えろ、そう思っているときだった。
ひと際、大きな歓声が響いた。
その方向を見ると、誰かが試技を終えたところだった。赤と白のユニフォーム、背の高い奴だった。少し色黒で、がっしりとした体型の男、あいつは知っている。
「やっぱ兵藤はすげぇな」
そんな声が聞こえてきた。
兵藤雄飛、僕と同じ学年で走幅跳を専攻しているならば知らない奴はいない。中学時代に全国大会にも出場して入賞も果たしている。
それに対し、僕は実績などないに等しい。県大会決勝に一度だけ残ったことはあるぐらいで、兵藤の全国大会入賞に比べものにならない。
赤と白のユニフォーム……あれ? 僕は思わず兵藤の胸元を確認した。そこには感じで「雄山一」と書かれていた。
岡野先輩と同じ学校だったのか。スタンド側を見上げ、もう一度岡野先輩を探した。同じ赤と白のジャージを来た岡野先輩は、兵藤に手を振っていた。兵藤に目を移すと、兵藤も余裕の笑みを浮かべながら手を振っていた。
胸の奥にモヤッとするものが湧き出てくる、どうも僕は小さい奴らしい。
「青城南高校、滝川くーん」
ハッとなる。僕の番だった。僕だっていい記録を残して岡野先輩に手を振ってもらいたい。
「はい!」
僕は前へと足を進めた。
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