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気合いは入っていた。足も重くはなかった。
しかし、結果が出ることはなかった。
僕は二回目も三回目もファールに終わってしまったからだった。
何の記録も残すことができなかった僕は、当然ながら決勝に進む十二人に選ばれるはずもなかった。
結果が記された紙が通路に張り出されていた。
記録を残すことができなかった僕は順位すら付くことはなかった。わかっていても、それが文字に起こされると落ち込んでしまう。
「たーきーがーわ」
その声で横を見ると、いつのまに横にいたのか岡野先輩が立っていた。
「あ、どうも……」
「結果出なかったねー、三回ともファールかー」
「はい……」
事実ではあるけれど、岡野先輩に見られたかと思うと、恥ずかしくて、この場を去ってしまいたかった。
「ま、そんなこともあるよね。切り替え、切り替え」
「はい」
「上から観てたんだけどさ」
「え、そうなんですか」
とわざとらしく驚いてみる。これは嘘だ、僕は岡野先輩がスタンドにいたことなんてとっくに知っていた。
「なんかさぁ……バラバラだったね」
「バラバラ?」
「誰か、教えてくれる人いるの? 顧問とか先輩とか同級生とか」
「え……いや、ウチは跳躍やってる人オレしかいなくて……」
「そっかー」
バラバラって何がバラバラなんですか? と聞こうとしたときだった。
「美空ー」
誰かが岡野先輩の名を呼んだ。声の方向を見ると赤と白のジャージの男女が数人いて、その中の一人の女子が呼んだようだった。
「もう行くよー?」
「あ、ごめーん。行く行く。じゃ、滝川、またね」
岡野先輩は僕の左肩を叩くと、赤と白の集団のほうへと小走りで去っていった。その集団の中に背の高い男がいた。兵藤だ。
「兵藤、北信越大会おめでとー」
「あざーす」
岡野先輩は兵藤とグータッチを交わしていた。
兵藤は一年生ながら三位入賞を果たし、県大会突破を決めていた。
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