4/5
前へ
/14ページ
次へ
*  気合いは入っていた。足も重くはなかった。  しかし、結果が出ることはなかった。  僕は二回目も三回目もファールに終わってしまったからだった。  何の記録も残すことができなかった僕は、当然ながら決勝に進む十二人に選ばれるはずもなかった。  結果が記された紙が通路に張り出されていた。  記録を残すことができなかった僕は順位すら付くことはなかった。わかっていても、それが文字に起こされると落ち込んでしまう。 「たーきーがーわ」  その声で横を見ると、いつのまに横にいたのか岡野先輩が立っていた。 「あ、どうも……」 「結果出なかったねー、三回ともファールかー」 「はい……」  事実ではあるけれど、岡野先輩に見られたかと思うと、恥ずかしくて、この場を去ってしまいたかった。 「ま、そんなこともあるよね。切り替え、切り替え」 「はい」 「上から観てたんだけどさ」 「え、そうなんですか」  とわざとらしく驚いてみる。これは嘘だ、僕は岡野先輩がスタンドにいたことなんてとっくに知っていた。 「なんかさぁ……バラバラだったね」 「バラバラ?」 「誰か、教えてくれる人いるの? 顧問とか先輩とか同級生とか」 「え……いや、ウチは跳躍やってる人オレしかいなくて……」 「そっかー」  バラバラって何がバラバラなんですか? と聞こうとしたときだった。 「美空(みく)ー」  誰かが岡野先輩の名を呼んだ。声の方向を見ると赤と白のジャージの男女が数人いて、その中の一人の女子が呼んだようだった。 「もう行くよー?」 「あ、ごめーん。行く行く。じゃ、滝川、またね」  岡野先輩は僕の左肩を叩くと、赤と白の集団のほうへと小走りで去っていった。その集団の中に背の高い男がいた。兵藤だ。 「兵藤、北信越大会おめでとー」 「あざーす」  岡野先輩は兵藤とグータッチを交わしていた。  兵藤は一年生ながら三位入賞を果たし、県大会突破を決めていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加