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* 「滝川?」  ふいに自分の名前を呼ばれて驚くと、今度は右隣にセミロングの黒髪水色のジャージの女の子が立っていた。今日は突然、人が横に立つんだな。  その子は、僕と同じ青城南高校の一年、村松雫(むらまつしずく)だった。 「ああ、村松さん」 「いまの知ってる人?」 「女の人と話してたでしょ」  村松は雄山一の集団を指差した。 「ああ、岡野先輩は同じ中学なんだ。中学のときはいろいろ教えてもらったんだ」 「ふーん」 「ん?」 「滝川は、あの先輩が好きなんだねー」  村松はニヤリと笑みを浮かべると何度も頷いた。 「な!」 「いや、バレバレだし。すっごい挙動不審で、見てたら笑えた」 「いや、そんなことない」 「隠さなくてもいいよ。うん」  そんなバレバレだったのか、僕は苦笑するしかなかった。 「好きなんでしょ?」 「……いまのままじゃダメかなぁ」  そう呟いて、僕は掲示された紙に向き直る。  岡野先輩も女子走幅跳で、二位入賞で北信越大会への進出を決めている。  それに引き換え、僕は順位すらつかない。  紙の一番下の方に「NM」と書かれているだけだった。  「NM」、それは「No Mark(記録なし)」を意味する。  まずは記録を出さないことには、僕なんかが岡野先輩に好きと言う資格もない、そう思って言ったのだが、 「そういうものなのかなー。気にしなくてもいい気もするけど」  と村松はサラッと言った。  そんなことを言っている村松は、中距離を専攻していて、女子800mで準決勝まで進出している。高みからの発言だよ、とは言わないことにしておいた。  まずは、NMから抜けだす、それが次の目標だ。
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