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 僕は今日もグラウンドの隅っこで練習を続けていた。  この前の大会で岡野先輩が言っていた「バラバラだったね」の意味を自分なりに考えてみた。  普通に考えれば、踏み切るタイミングとか飛ぶ姿勢のこととかを言うんだろう。どちらともかもしれない。何かがバラバラだから、いい記録に繋がらないということなんだろう。  岡野先輩や兵藤のように、同じ学校に走幅跳を専攻する部員がいれば、何か見てもらえるのかもしれない。しかし、この高校には走幅跳を専攻する人はほかにはいない。僕自身で考えなければいけない。  が、何度目かのジャンプをしてみても、何か変わったという気もしない。 「うーん」  僕が唸っていると「何やってんの?」という声が聞こえた。声の方向を見ると知念が立っていた。  知念は同級生の男子で、100mを専攻している。 「お、知念」 「砂の上で唸ってるけど、悩んでんの?」 「そう。なんかが『バラバラ』なんだよ。だからなんかうまくいかない」 「『なんか』ばっかだな」  僕は苦笑した。知念が「じゃあさ」と言ってから 「試しに一本飛んでみたら? オレは走幅跳なんてスポーツテストでしかやってないけどさ、素人目線だからわかることもあるかも」  知念が言った。そんなこともあるのかもしれない。僕は一つ頷いて、一回見てもらうことにした。  僕はスタートラインに立ち、右手を上げる。  少し向こうにいる知念も手を上げた。それを合図として僕は走り出す。踏み切り板をできるだけ意識しないようにして、僕は跳躍する。そこまで悪いタイミングとは思わなかった。が、それほど長い距離は出なかった。 「どうだった?」  僕は横で見ていた知念に尋ねる。スマホで録画もしてくれていたので、それを見てくれているようだった。 「跳び方とかその辺はよくわからないけどさ」 「うん」 「助走がよくないんじゃない?」 「え?」 「身体がこう上下してる」  知念が左手を上下に動かした。 「上下?」 「100mでも同じだけどさ、腰の高さが上下してるってことはさ、直線に進むべきなのにパワーがブレてるってことじゃん? そしたらスピードに乗れない」 「あー……なるほどね」  助走でスピードに乗り切れていない、そのまま跳べば、当然、いい結果にはつながらない。そもそも踏み切るタイミングも合わせにくくなる。 「さすが。短距離の目線だね」 「そんな大したことじゃないけどな。同じ部活なんだし、わかるとこは助けるよ」 「オレも、何か助けるよ」 「じゃあ秋の学年別リレーに出てよ。1年男子3人しか短距離いないんだから」 「OK。でも、オレバトンパス下手だよ」 「練習すればいけるって」  一種目増えてしまったが、知念の意見は参考になった。陸上は個人種目だし、専攻が違えば練習法も異なる。けれど、同じ部の仲間から意見をもらえるっていうのは、 「なんか、いいな、こういうの」  と僕が発した言葉の意味を知念はあまりわかってくれなかったのか、不思議そうに首を傾げた。
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