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「見たのは、初めてじゃないだろう」男の口調は、さっきより幾分優しい。
「・・・はい。でも、あーゆう事になったのは初めてで・・・」
男がオネエを見た。説明を求めている。
「追い込まれてたのよ」親指でわたしの後ろの壁を差す。「間一髪だったわね。もう少し遅かったら食べられてたわ」
「食べっ!・・・られてた!?わたしが!?」
オネエは不思議そうにわたしを見た。「あなた、1回も見たことないの?」
「何を?」即答だった。
「奴らが人間を、—— 襲うところ」言葉を選んでるのがわかった。
返事が出来ず、首を横に振ると、オネエは眉をクイっと上げた。
「それもまた、運が良いというかなんというか・・・」
運が良い?わたしが?
自慢じゃないが、わたしはこれまで自分を哀れむことはあっても、恵まれてると思ったことは1度も無い。
「一応聞くけど、あなた大人よね?」
突として聞かれ、感情が顔に出ているのが自分でもわかった。「どーゆう意味ですか?」
「今のは、セクハラ発言にも取れるぞ」男が冷静に指摘する。
「いやん!違うわよ!ただ、大人になるまで1度も見ずに生きてきたなんて、ちょっと信じ難くて」
「まあ確かにそうだな。ただ、どう見ても小学生には見えんぞ」
「・・・一応、24歳の大人です」
「あら、ピチピチね。ごめんなさい、悪気はないのよ」
24でピチピチって、この人はいったい何歳なんだ。
「そんなに、おかしいですか?その、今まで・・・」その先は、どう表現していいかわからなかった。
「そうねぇ・・・」オネエがしみじみと言い、腕を組んだ。「奴らの中にも、人間に害を与えないのもいるわ。でも、大概は——」
今しがた自分に起こった事に、段々現実味が湧いてきた。さっきの彼女は、わたしを食べようとしていたんだ。
手が、微かに震えるのがわかった。
「大丈夫よ」ふと、頭に手が乗る。「もういないから。安心しなさい」
オネエの言葉の通り、ホッとする自分がいた。
「でも、どうやって・・・その、始末・・・したんですか?」
オネエは後ろに手をやると、先ほどのナイフを取り出した。鞘から外さず、わたしに見せる。「簡単に言うと、これで突き刺すのよ」
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