始まり

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「あなた、お名前は?」言いながらオネエはまたナイフを後ろに隠した。 「中条です」 「中条・・・?」 「あ、雪音です」 「あらー!綺麗な名前ね。ピッタリよ」 —— どういう意味だ。 「あたしは遊里(ゆうり)よ。早坂 遊里。そして・・・」数秒間、沈黙が流れ—— 「アンタの番でしょ!自己紹介しなさいよ!」 「今の流れだとお前が紹介するもんだと思うだろ!」 「あら、そお?この人はね、瀬・・・」 「瀬野 正輝(せの まさき)だ」 「結局言うんじゃない!」 「自分の紹介くらい自分でする」 「ブッ・・」思わず噴き出してしまい、2人がまたわたしを見た。「ご、ごめんなさい」と謝りながらも、笑いを抑えられない。だって、2人のこの間(ま)、なんかツボなんだもん。 「ふふ、少し落ち着いてきたみたいね」 そう言われて、確かにと気がついた。笑える余裕があるほど、気持ちは落ち着いている。 「それで、どうするんだ?」 「うーん、そうねぇ」オネエが腕時計を確認する。「もうこんな時間だし、詳しい事は後日ね。雪音ちゃん、携帯番号教えてくれるかしら?」 警戒心というよりは、当然のように名前を呼ばれたことに、すぐ返事ができなかった。 「ほら、セクハラだと思われてるぞ」 「ノー!違うわよ!今度、改めて話をしたいから、連絡先を教えてって意味よ!」 ノーって。わたしはボディバッグから携帯を取り出し、自分の番号を表示してしてオネエに見せた。オネエは「ありがと」と微笑み、自分の携帯に入力する。そのあと、1コール貰った。 「さっ、夜も遅いしお家まで送ってくわ」 「あっ、いえ、家すぐそこなんで大丈夫です」 「何言ってるの!女の子でしょ」 —— 説得力に欠けるのは、気のせいじゃないだろう。 「警戒されてるなぁ」男が面白そうに言う。 「もー!変なこと言わないでよ!雪音ちゃん、安心して。あたしジェントルマンだから」 —— 説得力に欠けるのは、間違いない。 「送ってもらったほうがいいぞ。また、さっきのような目に遭わないとも限らんだろう」 ドキリと心臓が跳ねた。確かに、近いとはいえ、もう現れないという保証はない。 「では、お願いします・・・」ボソりと呟く。 「じゃあ、俺は先に行って"報告"してる。頼んだぞ」 「オーケー」
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