始まり

13/14
前へ
/427ページ
次へ
「あの、瀬野さん」去ろうとしていた瀬野さんが振り返る。——この人達がいなければ、わたしは今頃、どうなっていたか。「助けてくれて、ありがとうございます」 「助けたのはソイツだ」瀬野さんはそう言い、来た道を戻っていった。 「さっ、あたしたちも行きましょうか」 「・・・はい」 オネエの後に続き、数メートル歩いたところで、「あ──っ!!」 「わーっ!・・・なにっ!どうしたの!?」 思い出した。「・・・アイス・・・」 「アイス?」 また戻り、辺りを探すと先程わたしが追い込まれていた場所に落ちていた。 拾い上げて袋の中からアイスを取り出すと、すっかり液体化している。 「ガーン・・・」 「びっくりした。何事かと思えば、アイスの心配?」 「・・・奮発したんです。いつもは買わない高いヤツなのに・・・」 これは、帰ったら冷凍し直してまた食べる。心に決めた。 「ふふ・・・掴めない子ね。面白いわ」 「えっ」 オネエは、その言葉通りの顔をしている。「さっ、行きましょう」 家までは5分程で着いた為、とくに会話という会話も無かった。 オネエは辺りを見回しながら、時々わたしにも目を向け、歩幅を合わせて歩いてくれているのがわかった。疲れ切っていたわたしは、素直にそれに甘えた。 「今日は、ありがとうございました」 「あなたを見かけて良かったわ。この辺はあまり通らないんだけど。コレも何かの縁ね」 「・・・あの・・・」 「ん?」 聞きたいことは山程あるはずなのに、頭がまわらず、言葉が出てこない。 「大丈夫よ。今度、ちゃんと話してあげるから。今日は何も考えず、ゆっくり休みなさい」 —— やっぱり、この人は人の考えてることが読めるのか? 「わかりました・・・おやすみなさい」 オネエはニコりと微笑んだ。「おやすみなさい」 アパートの階段を登ったところで1度振り返ると、まだこっちを見ていた。 手を振り、早く行けと促す。 わたしは頷き、小走りで2階へ上がる。部屋に入り、電気もつけず窓に直行した。 バッグと買い物袋をベッドに放り投げ、カーテンを開ける。 ———いない。 一気に気が抜け、そのままベッドに仰向けに倒れ込んだ。「いてっ!」さっき投げた袋に後頭部が直撃した。 あ、アイス、冷凍庫に入れなきゃ。 それより、今になって自分が死ぬほど喉が渇いてることに気づいた。 ペットボトルの水を一気に3分の2ほど飲み干す。ひと息ついて、残りも。
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加