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「ねえ、お母さん。なんであの子は耳が生えてるの?」
「あの子?何処のこと言ってるの?」
「ほら、見て。あそこ」
「ブランコで遊んでる子?」
「ううん、その横にいる子」
「雪音、ブランコで遊んでいる子が2人いるわよね。その子のことを言ってるの?」
わたしは首を横に振った。「違うよ、その横でジャンプしてる子。耳が生えてる子だよ」
母親は、わたしが指を差す方向を目を細めて見た。1度ギュッと目を閉じ、また確認する。
「・・・誰もいないじゃない。なんのこと言ってるの?」
「ほら、あそこだよ!」母親の腕を引っ張り訴えたが、反応は同じだ。
「あー、雪音、幽霊が見えてるのね?きゃー!お母さん怖い〜」
「あっ、待ってお母さん!」ふざけて逃げる真似をする母親を、わたしは追った。
シッカリと手を掴み、後ろを振り返る。
公園のブランコでは2人の女の子が遊んでいる。その横の支柱には、2人を見ながら楽しそうに飛び跳ねている子が"1人"。ピンと立った大きな耳が可愛いなぁと思った。
なんでお母さんには見えないんだろう。歩きながら母親を見上げ、口を開きかけたが、とどまった。その時は、子供ながらに察していたのかもしれない。
これ以上、何か言ってはイケナイということを。
それが、小学1年生の時、母親とスーパーの帰り道に通り掛かった公園で見た、"最初"だった。
それからは、しばらく見ることもなかった。
子供の良いところは、物事に対して純粋なところだ。忘れられる純粋さ。
頭の片隅に残っていたその日の記憶も、時間と共に忘れていった。
"次"の時は、決して忘れられない。
あれはわたしにとって、人生で1番最悪な出来事だったといっても過言ではない。
小学2年生になった夏休みのある日、わたしは入学した時から仲良しの未来(みらい)ちゃんと、未来ちゃんの家で宿題をやっていた。
7歳やそこらのやんちゃ盛りの子供に集中力なんてものがあるわけもなく、わたし達は早々に切り上げて、近所の公園に向かうことにした。
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