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「あの子のこと、どう思ってるの?」
「・・・一真くんはなんて言うか・・・可愛い弟みたいな感じで。あんな弟がいたら良かったなぁって心から思います」
早坂さんが真っ直ぐわたしを見るから、正直に答えた。
「ちょっとわかるわ」早坂さんはフッと笑った。「子犬みたいだものね、あの子」
「そうなんですよ。すがるような上目遣いとか、見てるとホント子犬みたいでほっとけなくなっ・・・」
早坂さんの手が唇に触れ、言葉が遮られた。
「それでも、そんなふうに笑ってあの子のことを話すのは聞きたくないわ」
早坂さんは微かに微笑んでいるように見えるが、その目は怖いくらいに真剣だった。
鼓動が早まる──。
わたしは口に触れている早坂さんの手をどけて、そのまま握った。
「なんでですか?」
また、困惑の顔を見せる。そう思ったのに、早坂さんはわたしから目を離さなかった。
「なんでだと思う?」
───えっ。
予想外の反応だった。そして、聞き返す?それって、アリ?
答えが聞きたいのに、今度はわたしが戸惑ってしまう。
「なんでって・・・」
早坂さんはわたしが掴んでいる手を、そのままわたしの頬へ持っていった。
「あなたの事をこんなに考えて・・・苛立って、それでも、考えるのをやめられないのは、なんで?」
早坂さんの目は少し虚ろで、わたしに対してというより、自分に問いかけているように感じた。
「なんでか、わからないんですか?」
早坂さんはわたしを見つめると、頬に添えた手を下ろし、横顔を見せて切なそうに微笑んだ。
「あたしには、さらけ出す勇気がないわ」
──それは、わたしの事を好きだと言っているようなものだった。
でも、わたしは嬉しいと思わない。早坂さんがあまりにも苦しそうに笑うから。その内側に隠された何かが、早坂さんを蝕んでいるのは明確だった。
この人に、いったい何が起きたんだろう。
"ミハル"という名前が脳裏を過ぎる。その名前の女性が関係しているのは、おそらく、間違いない。
踏み入りたい気持ちと、聞いてはいけないと思う自制心が葛藤する。
でも、それ以上にわたしを占めたのは──これ以上、早坂さんの辛そうな顔を見たくない。
わたしは1歩踏み出し、早坂さんの身体ギリギリの所まで近づいた。そして早坂さんを見上げる。
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