わたしの代わり

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春香はそれを思い浮かべるように天井を見上げた。 「店終わりに飲みに行く時、アンタ歩いてて突然ピタって止まる事あるじゃない。何も無い所見てると思ったら、いきなり早足で歩き出すし。普通に歩いてて突然別の道行こうって言い出す事もあったし。この前も店出た時、アレ見える?って地面指さして言ってたじゃない」 ──ああ、空舞さんのことか。 「ヤクのせいで幻覚でも見えてんのかなって本気で思ったこともあるけど、店長はありえないって言うし」 2人でそんな話をしてたのか。まあ、そんな話題になるほど、わたしの行動は怪しかったということか。 気づかれていることに、気づかなかった。 「そうだって言ったら、信じる?」 「なにが?」 「・・・わたしが、その、見えるって言ったら」 春香は、表情を変えない。 「あたしの仮説は当たってたってこと?で、いいの?」 「・・・・・・うん」 自分でもやっと聞き取れる、小さな声だった。 反応が怖くて、顔を伏せた。やっぱりヤク中だと言われるだろうか。それとも、笑うだろうか。 「あたし、天才?」 「・・・・・・えっ」 「当たってるんでしょ?正直、半分以上冗談だったけど。やっぱりあたしの見る目に間違いはないってことね。男以外」 春香はいつもと同じテンションだ。驚いているのは、わたしのほうだった。 「信じてくれるの?」 「うん」春香は平然と言った。 「・・・ホントに?信じてる?」 「はあ?嘘なわけ?」 「いやっ、違う、ホントだけど・・・」 「なんでアンタが不満そうなのよ」 「いや・・・すんなり信じてくれるとは思わなかったから」 春香はポテトを2本掴み、わたしの口に入れた。自分も食べると、それをウイスキーで流し込む。 「・・・酔ってるからとかじゃないよね?」 春香に睨まれ、口を噤んだ。 「言っとくけど、あたし霊類のモノは昔から信じてないから。周りに見えるって人もいたけど、正直信じてなかったし」 「えっ、じゃあ・・・」 「アンタが言うなら、本当なんでしょ」 「・・・なんで?」 「100パーセント言い切れるから」 「・・・ん?なにを?」 「アンタは嘘は言わない。ってこと。まあ、当てたのはあたしだけど」 ──・・・不覚にも、泣きそうだった。いや、そう思った次の瞬間には、涙が溢れていた。
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