30人が本棚に入れています
本棚に追加
早坂さんの熱い手が、わたしの手をぎゅっと握った。
「心配かけてごめんね。あたし、本当に病院には行きたくないのよ。ていうか、行ったら悪化するかも。雪音ちゃん、あたしは大丈夫だから。熱ほど酷くないのよ?こうやって喋れる元気もあるし、本当にヤバいと思ったら行くから。ね?」
「・・・約束ですよ。本当に駄目だと思ったら、そうなる前に、ちゃんと言ってください」
「わかった」早坂さんがわたしを握る手に力を込めた。
「はあ・・・早坂さんも頑固だ」
「ふふ」
「なんですか?」
「いえ、そんなに心配してくれるなんて、愛されてるなぁと思って」
「・・・さ、プリン食べましょうか」
「否定しないわね」
「ゼリーがいいですか?」
「否定しないということは、"そーゆうこと"?」
「早坂さん」
「はい」
「"今は"、何か食べて薬を飲んで、一刻も早く寝てください。いいですね?」 わたしは真剣に訴えた。
「・・・あい」
「何が食べやすいですか?」
「んー、ゼリーがいいわ」
早坂さんは隣にある枕を頭に挟み、軽く上体を起こした。
ゼリーの蓋を取り、スプーンと渡すが、早坂さんは受け取らない。
「ん?」
「関節が痛くて腕が上がらないわ。食べさせて」
──さっき、わたしに向かって手を広げてましたけど?
しかし、この高熱だ。関節が痛いというのは本当だろう。
ゼリーを一口すくい、早坂さんの口へと持っていく。それを早坂さんがパクりと咥えた時、心臓がドキリと跳ねた。なんなんだ、この急な心拍上昇は。
無になれ。目の前にいるのは早坂さんではない、店長だ。店長にアーンしていると思え。
──ある意味、心拍も下がった。
「美味しいわ。ゼリーなんて何十年ぶりに食べたかしら」
そうは言いながらも、飲み込む時に顔をしかめ、辛そうだ。
「雪音!それはなんだ?うめーのが?」
おばあちゃんはベッドに両手をつき、興味津々にゼリーを見ている。
「うん、ゼリーだよ。まだあるけど、食べる?」
「んだ!1個くれ!」
おばあちゃんはベッドからピョンと飛び降り、トレイにある3個入りのゼリーの1つを手に取った。
「あら、珍しいわね。普段、何も入ってないスープしか食べたがらないのに」
「まあ、溶かせばスープみたいなもんですからね」
どうやら、透明で何も入っていないというのがミソらしい。
おばあちゃんはベリっと蓋を開けると、その小さな手をスプーン代わりに、一気に口の中にかき込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!