突撃、お宅訪問?

13/23
前へ
/424ページ
次へ
早坂さんの熱い手が、わたしの手をぎゅっと握った。 「心配かけてごめんね。あたし、本当に病院には行きたくないのよ。ていうか、行ったら悪化するかも。雪音ちゃん、あたしは大丈夫だから。熱ほど酷くないのよ?こうやって喋れる元気もあるし、本当にヤバいと思ったら行くから。ね?」 「・・・約束ですよ。本当に駄目だと思ったら、そうなる前に、ちゃんと言ってください」 「わかった」早坂さんがわたしを握る手に力を込めた。 「はあ・・・早坂さんも頑固だ」 「ふふ」 「なんですか?」 「いえ、そんなに心配してくれるなんて、愛されてるなぁと思って」 「・・・さ、プリン食べましょうか」 「否定しないわね」 「ゼリーがいいですか?」 「否定しないということは、"そーゆうこと"?」 「早坂さん」 「はい」 「"今は"、何か食べて薬を飲んで、一刻も早く寝てください。いいですね?」 わたしは真剣に訴えた。 「・・・あい」 「何が食べやすいですか?」 「んー、ゼリーがいいわ」 早坂さんは隣にある枕を頭に挟み、軽く上体を起こした。 ゼリーの蓋を取り、スプーンと渡すが、早坂さんは受け取らない。 「ん?」 「関節が痛くて腕が上がらないわ。食べさせて」 ──さっき、わたしに向かって手を広げてましたけど? しかし、この高熱だ。関節が痛いというのは本当だろう。 ゼリーを一口すくい、早坂さんの口へと持っていく。それを早坂さんがパクりと咥えた時、心臓がドキリと跳ねた。なんなんだ、この急な心拍上昇は。 無になれ。目の前にいるのは早坂さんではない、店長だ。店長にアーンしていると思え。 ──ある意味、心拍も下がった。 「美味しいわ。ゼリーなんて何十年ぶりに食べたかしら」 そうは言いながらも、飲み込む時に顔をしかめ、辛そうだ。 「雪音!それはなんだ?うめーのが?」 おばあちゃんはベッドに両手をつき、興味津々にゼリーを見ている。 「うん、ゼリーだよ。まだあるけど、食べる?」 「んだ!1個くれ!」 おばあちゃんはベッドからピョンと飛び降り、トレイにある3個入りのゼリーの1つを手に取った。 「あら、珍しいわね。普段、何も入ってないスープしか食べたがらないのに」 「まあ、溶かせばスープみたいなもんですからね」 どうやら、透明で何も入っていないというのがミソらしい。 おばあちゃんはベリっと蓋を開けると、その小さな手をスプーン代わりに、一気に口の中にかき込んだ。
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加