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そう、目を閉じて二度寝に入ったわたしだったが──今は、非常に困っている。
とっくに目は覚めているものの、狸寝入りを決め込んでいるからだ。わたしが起きた時、早坂さんはすでに起きていた。そして、背中にいたはずの早坂さんが目の前にいた。
いつの間に、こんな事になったんだろう。
早坂さんはわたしを胸に抱いたまま、携帯をいじっている。
それに、さっきから微かに聞こえるこの音は、ゲームか?騒がしい機械音に、カチャンカチャンという金属音。どこかで絶対聞いた事があるのに、何なのか思い出せない。
"リーチ!"
──ああ・・・「パチンコですか」
「ぅわっ」 早坂さんがわたしの身体ごとビクッと動いた。「ビックリした・・・起きてたの?」
「今、起きました」嘘ですゴメンナサイ。顔を上げられないのは、顔の所在地がわかるから。
「ごめんなさい・・・わたしも寝ちゃいました」
「ん?なんで謝るの?あたしはむしろ礼を言いたいくらいなんだけど」
「・・・体調はどうですか?」
「うん、だいぶ楽になったわ」
「・・・ホントに?」
「プッ、嘘ついてどーするの」
「熱、測ってください」
「・・・大丈夫?」
「え?」
「固まってるけど、どしたの?」
「なんでもありません」
「雪音ちゃん?ちょっとこっち向いて」
早坂さんの手が顎に触れ、無理矢理上を向かされる前に、わたしは早坂さんの胸にしがみついた。
「・・・・・・あたしとしてはこの上なく嬉しいんだけど、ホントにどうしたの?」
「い、いっぱいいっぱいで・・・今は顔見れないデス」
自分が何を"しでかしている"のか、理解する余裕はなかった。ただ恥ずかしくて、顔が上げられない。
と思っていたら、早坂さんの身体が突然離れた。
「・・・・・・えっ」
今、何が起きたのだろう。まるで静電気でも起きたかように、早坂さんはわたしに背を向けた。
「あの・・・早坂さん?大丈夫ですか」
「大丈夫じゃないわ。あぶな」
「あの・・・」早坂さんの大きな背中に手を伸ばす。
「今あたしに触れたら、何するかわかんないわよ」
触れる寸前で、手を止めた。その意味がわからないほど、アホではない。たぶん。でも、それがどんな意味だろうと、わたしは今、早坂さんに触れたかった。だから、そうした。
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