黎明

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午後20時─。 「あ──、今日はこんなもんかね」 窓の外を見ながら、春香が低い声で呻いた。 「うーん、人歩いてないしね。さっき帰ったお客さんで終わる可能性もあり得る」 「ここで途絶えたら、2組よ?計4人!こりゃあ潰れるのも時間の問題か?」 「ヤメテくれっ!まあ、こんな日もあるでしょう・・・」 「あんたが今考えてる事、当ててやろうか」 「なに?」 「そういえば、昨日も暇だったような?」 「・・・確かに」 春香はレジカウンターに寄っ掛かり、溜め息をついた。 「最近暇なの多くない?まあ、周りに新しい店がオープンしてるってのもあるけど、ウチの店もちょっと考えないとね」 「考えるとは?」 「期間限定メニューをもっと増やすとか、平日にハッピーアワー設けるとかさぁ」 「あー、時間帯で安く提供するってことね」 「あたしらだって、それ狙って行ったこと何度もあるじゃない?酒飲みはそーゆうのを目掛けて行くのよ」 「まあねぇ・・・そういえば、限定メニューもそろそろ変わる頃じゃない?」 春香が厨房にいる店長をチラリと見た。 「変わるって言っても、毎年同じ物の繰り返しじゃあねぇ・・・捻りが足りないわ。ヤル気あんのかしらあの人」 「見ればわかるよね」 店長はカウンターに肘をつき、真面目な顔で携帯と睨めっこしている。あの顔で携帯を横向きに持っている時は、決まってゲームだ。戦争ゲームだか何だか知らないが、課金と後悔の繰り返しを、数年見守っている。 わたしたちの視線に気づいた店長がこちらを見た。 「なに?どーしたの?一緒にやる気になった?」 一緒にやろうと誘われても数年。わたしと春香は、道連れにはならないと心に決めている。 「てんちょー、メッチャ暇なんですけど、どーするんですかぁー」 「え?どーするって?どーしようもないじゃん」 「最近、客足が遠のいてる気がするんですけど、何か対策考えません?」 「たとえば?」 春香の言葉を本気で聞いていないのは、スマホを忙しなくタップする手でわかる。 「メニュー改善とか?」 「あーダメダメ、そんなのしたって無理。来ない時は来ないから。大丈夫、そのうち忙しくなるって」 あえて春香の顔を見ないのは、どんな顔をしているかわかるから。
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