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「このアザは、広がり続けるんですよね?その、財前さんみたいに・・・」
財前さんはゆっくり頷いた。「対処しないことにはね。僕のように徐々に身体を蝕まれていく」
「対処しないことには?」わたしより、早坂さんのほうが早かった。「何か方法があるの?」
財前さんは雪人さんと目を合わせた。そして、財前さんの代わりに雪人さんが口を開いた。
「今の状態でしたら、可能性はあります。あくまで、可能性ですが・・・」
「どーゆうこと?」また、負けた。
「わたしの家系は代々、薬を煎じておりまして。昔、祖母が蛇の妖怪に噛まれた時、やはり雪音さんのようなアザが出たのですが、それを治した薬があります」
「可能性ということは、効かない可能性もあるということか」
今度は瀬野さんに負けた。
「はい。効かないだけではなく、その場合、死に至ります」
再び、重い沈黙が流れた。いや、ここで黙るんかい!内心突っ込み、横目で早坂さんを見ると、怖い顔で一点を見つめている。やっと、わたしの出番が来た。
「なんとなく、わかりました。毒を以て毒を制すってやつですか?」
雪人さんは一瞬、驚いたようにわたしを見た。表情を変えないロボットみたいな人だと思ったが、こんな顔も出来るんだ。
「仰る通りです。その薬というのは、蛇の毒も用います。私は祖母が服用したところを直接見たわけではないのですが、同じように噛まれた他の人間は、"どちらか"だったと聞いております」
「生きるか、死ぬか・・・ですね」
雪人さんが頷いた。
「・・・えっ、待ってください、だったら財前さんも・・・」
目が合うと、財前さんはわたしに優しく微笑んだ。
「こんな時でも、君は他人(ひと)の事ばかりだね。ありがとう。でも、僕はちょっと手遅れかな」
笑いながら言うと、財前さんは着物の袖を捲り、忌々しいそのアザを見せた。
「ここまで広がっていると、どうにも出来ないんだ。残念ながらね。しかし君は・・・」
「駄目よ」
──この人が、そう言うのはわかっていた。
「あたしは許さない」
「・・・早坂さん」
「死ぬかもしれないのよ。それを黙って見てろって?」
「放置してたら、いずれ死ぬんですよ」その言葉を口にして、ハッとした。財前さんを見たら、変わらず優しい顔で微笑んでいた。
自分の事は気にするなと、目で言っている。
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