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帰りの車内も、やはり無言だった。
何を考えているんだろう。表情からは何も掴めない。
「あの、早坂さん、怒ってます?」
「なんで?」 早坂さんはこっちを見ない。
「いや、ずっと黙ってるから・・・」
「あたしが何言っても、あなたの腹は決まってるんでしょ」
やっぱり、怒ってるじゃん。
「反対ですか?」
「反対?遊びに行く場所でも決めるみたいに言うのね」
いや、メッチャ怒ってるじゃん。
「他に、どうしろって言うんですか。方法が無い以上、そうするしかないでしょう」
「・・・わかってるわ」
「わかってるなら、いつも通りにしてください。明日、死ぬかもしれないのに・・・このままじゃ嫌なんですけど」
突然、身体が傾き、車が荒々しく道路脇に停められた。早坂さんが身を乗り出し、助手席の窓にバンと手をついた。
「簡単に言うのね。あたしの気持ちを、少しでも考えた?あなたに何かあったら・・・あたしはどうすればいい?」早坂さんが力無くわたしの肩に頭を乗せた。「あなたに、出逢わなければよかった・・・」
──心臓が、締め付けられた。
わたしは早坂さんの頭を包み込むように抱きしめた。
「そんなこと言わないでください。わたしは早坂さんに逢えて良かったです。心からそう思ってます。それに・・・さっきの撤回します。わたし、絶対死なないので。安心してください」
早坂さんはしばらく動かなかった。そして、少しだけ顔を上げると目を合わせず、わずかに微笑んだ。
わたしのおでこに軽く唇を押し付け、何も言わず、また車を走らせた。
アパートの前に車を停めると、早坂さんはすぐにわたしの手を握った。
「仕事には行くの?」
「はい。明日の休みの相談もあるし」
「・・・なんて言うの?春香ちゃんに」
「ん・・・それも考えたんですけど、変に心配かけたくないんで、この事は黙っておこうかなって。だから、もしもの時は、早坂さんから伝えてもらえますか?」
早坂さんは、返事をしない。
「いやっ、もしもも何もないですけどね?一応です一応、念のため!」
「・・・仕事終わったら、うちに来る?」
──それは、何よりも嬉しい言葉だった。そうしたい。出来るだけ、一緒にいたい。
でも、わたしは、強気でいたい。
早坂さんと2人でいる時間が長ければ長いほど、それが崩れてしまう気がした。
「いえ、大丈夫です。また近いうち、遊びに行かせてください」
わたしが笑顔を見せると、早坂さんも微かにだが、微笑んでくれた。
「わかったわ。でも迎えには来るわ。昨日の事もあるし、1人で動くのは危険よ」
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