黎明

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「・・・いや、わたしを殺そうと思うなら、昨日とっくにそうしてると思うんですよね・・・」──もしくは、出来ない何かがあるのか。「だから、心配しないでください。わたしも出来るだけ普通にしていたいので」 早坂さんが納得しないのは、わかっている。それ以上に、わたしの気持ちを汲んでくれようとしているのも。 「・・・わかった。明日、迎えに来るわ」 午後11時50分─。 帰宅したわたしは、缶ビールを手にベランダへ出た。 カシュッと素敵な音を聞き、少し溢れた泡をゴクゴクゴクと喉に流し込む。 「くぅ〜〜〜〜あっ」 明日死ぬかもしれない状況でも、ビールの美味さは変わらないらしい。 ベランダの手すりに肘をかけ、わたしは暗闇の空へ念じた。 来い──空舞さん、来い。 20分待った。しかし、空舞さんは来ない。冷蔵庫へ向かい、2本目のビールとあたりめを持ってまたベランダへ向かう。 「ぉわっ!・・・あれっ!?いつの間に!?」 「今来たわ」 「・・・念が通じたか」 空舞さんは首を傾げた。「なんの話?」 「空舞さん来いって念じてたんです」 「なぜ?」 わたしはベランダの脇にあるパイプ椅子に腰掛けた。 「ちょっと、話したくて」 「何かあったの?」空舞さんは手すりを移動してわたしに近づいた。 「わたし、明日死ぬかもしれないんです」 自分でも唐突すぎるとは思ったが、案の定、空舞さんは無反応だった。 「どーゆうこと?」 それから、事の起こりを説明した。重点を置いて、簡潔に。その間、空舞さんは黙って聞いていた。 ──「ということで、空舞さんに会いたいなぁって思ってたんです」 「・・・・・・そう」 小さな声でそれだけ呟くと、空舞さんは頭を垂れた。 「いや、大丈夫ですよ?わたし死なないので。死なない自信あるので。ただ、万が一のために?会っておきたかっただけなんで!」 空舞さんの反応は、ない。 「優子のようにあなたまでいなくなったら、わたしは耐えられないわ」 「えっ・・・」 「ごめんなさい。失礼するわ」 「えっ!ちょっ・・・空舞さん!?」 空舞さんは翼を羽ばたき、暗闇へ飛び立って行った。空舞さんを追って宙に浮かぶ自分の手が、虚しい。 わたしはさっきの空舞さんのように頭を垂れた。 そうか──空舞さんは優子さんを亡くした傷が癒えてないんだよね。それなのに、わたしまでいなくなったら──・・・申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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