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午前7時30分─。
迎えに来た早坂さんの車に、わたしは元気よく乗り込んだ。
「おはようございます!」
「・・・おはよう」
「テンション低いですね」
「あなたは高いわね」
早坂さんはすぐにわたしの手を掴んだ。アザを確認している。
「大丈夫です。昨日と変わってません」
早坂さんはふうと息を吐いた。
口には出さなかったが、早坂さんの顔は酷く疲れていた。おそらく、一睡もしていない。
「あ、その服・・・」
「あ、はい。早坂さんのパーカーです。似合いますか?」
早坂さんは力無く微笑んだ。
「可愛いわ」
そして、ゆっくりと車が動く。
「お休みは貰ったの?」
「はい、とりあえず3日ほど貰いました。どれくらい時間が必要なのかもわからなかったので・・・」
──ていうか、3日で足りるのか?まさか、1ヶ月とかかからないよね。考えたら急に不安になってきた。
「なんて言って?」
「・・・法事です。風邪とか言うと、家に来そうだったので」
「そう」
わたしは微かに聞こえる音楽の音量を上げた。
聞き慣れた洋楽に、車内の匂い、座り慣れたシート。ここはわたしにとって、最高の癒しの空間だ。
「わたし、この車好きです」
「・・・そう?あげるわよ」
「乗れないんでオブジェになりますね」
「そっか、免許ないのよね。取ったら?」
「いや、取ったところで、いつ乗るかっていう・・・」
「この車に乗ればいいじゃない」
「・・・なるほど。いいんですか?ぶつけるかも」
「いいわよ。直せばいいだけだし」
金持ちの発言だ。
「考えときます・・・」
早坂さんが、当たり前のように先の事を話すのが嬉しかった。前向きになってくれてるのかな。
「・・・ん?なんですかソレ」
早坂さんがウインカーを出した時、ある事に気づいた。
「え?・・・ああ、ちょっとね」
「見せてください」
「ダメよ、運転中だもの」
「いつも片手でしか運転しないでしょ!早く見せてください!」
早坂さんは渋々右手をわたしに見せた。
「なんっ・・・ですかコレ!」
早坂さんの手の甲が、指の付け根の骨から上にかけて赤く腫れ上がり、内出血を起こしている。加え至る所に擦り傷があり、血が固まっている状態だ。
「何か殴ったんですね?」
「いいえ?ぶつけたのよ」
「何処に」
「壁に」
「壁にぶつけたくらいじゃこんな事にはなりません!」
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