黎明

20/28

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
財前さんの家に到着すると、最初に出迎えてくれたのは泳斗くんだった。 「ユキネ!」 泳斗くんはわたしを見るなり、ピョンと胸に飛び乗ってきた。 「泳斗くん久しぶり!でも、ないかな?」 泳斗くんは黒い甚平を着ていた。季節外れ感は否めないが、最高に可愛いから問題ない。 「ボク、ユキネとボールで遊ぶ!」 「ん?ボール?」 「うん!サッカーだよ!」 「おお・・・出来るの?」 誰かに教えてもらったんだろうか。と、その時、襖が開いた。雪人さんだ。 「おはようございます。雪音さん、お待ちしておりました」 「ユキネ!外行こ!」 雪人さんは近くに来ると、わたしの胸からそっと泳斗くんを抱き上げた。 「泳斗くん、それはまた今度に。いいね?」 泳斗くんは口を尖らせ不満そうだったが、コクリと頷いた。なるほど、雪人さんの教育はちゃんと行き届いているらしい。 「泳斗くん、今度いっぱい遊ぼうね」 「うん!」 「裏庭にプールがあるから遊んでおいで」雪人さんが促すと、泳斗くんは奥の部屋へ走って行った。 この時期にプールとは。想像するだけで寒気がするが、元々泳斗くんは水の中に住んでいたし、それが当たり前なんだよね。 「お入りください」 「あ、はい」 部屋へ行くと、いつもの場所に財前さんが座り、その隣に瀬野さんがいた。そして、奥に1枚の布団が敷かれている。 ──あれは、わたし用だろうか。 「おはよう雪音ちゃん。昨日は眠れたかい?」 「おはようございます。はい、それなりには・・・」 隣にいる人をチラリと見た。間違いなく、この人よりはね。 「お前、なんつー顔してんだ」 瀬野さんが言ったのは、早坂さんに対してだ。 「仏頂面に言われるとはね」 わたし達が座るなり、雪人さんはトレイに乗せた小さなグラスを持って来た。それをテーブルの上に置く。 「雪音さん、これが例の薬になります」 「・・・これを飲めと」 「はい」 「どう見ても人間が飲める色してないんですが」 この色を一言で言うなら、土だ。畑の色。何処からどう見ても、毒薬としか思えない。 「これを残さずに飲んでください」 「・・・どんな味するんですか」 「わかりかねます」 「ですよね」 量で言えばショットグラス一杯程度だが、これを口に入れるにはかなりの勇気が必要だ。 「なんつーか、効きそうな色してるな」 瀬野さんよ、他人事だと思って。 「こちらは準備が出来ていますので、あとは雪音さんのタイミングでお願いします」
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加