黎明

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部屋に戻ったわたしに、瀬野さんが言った。 「風呂でも入ってきたのか?」 自覚はあった。身体中が燃えるように熱い。一向に熱が冷めてくれない。歩いているのに足の感覚がない。ふわふわと宙に浮いているような気分だった。 ──しかし、すぐに現実に引き戻された。 いざ薬を手にすると、死というものがリアルに押し寄せてきた。ついさっきまで覚悟を決めていたのに。これが最後かもしれない、その現実に押し潰されそうだった。 「雪音ちゃん。焦らなくていい、いくらでも時間をかけていいんだ」 わたしの布団を挟んで財前さんと雪人さんが座っている。早坂さんと瀬野さんには、部屋を出てもらった。早坂さんはそばにいると言ってくれたが、わたしが断固拒否した。逆の立場だったら、早坂さんが死ぬかもしれない物を口にするところを見るなんて、耐えられない。それにわたし自身、早坂さんがそばにいると決心が鈍りそうだった。 「すみません・・・なんか、ここにきて怖気付いちゃいました」 まだ、笑える余裕はあったらしい。 「雪音ちゃん、君がやろうとしてる事は他の誰にも出来ない。僕は君を尊敬するよ。心から」 視界の隅で雪人さんが頷くのがわかった。 「財前さん、1つお願いがあるんですが」 「なんだい?何でも言うといい」 わたしの"懸念材料"を伝えると、財前さんは小さく微笑み頷いた。 「わかった。安心しなさい」 「ありがとうございます」 ──・・・さて。時間をかければかけるほど決意が揺らぐ。もう、やらなければ。 「よしっ」わたしは1度、深く息を吐いた。「中条雪音、やります!」 そして鼻をつまみ、そのどぎつい色の液体を一気に口の中に流し込んだ。 わかったのは、鼻をつまむ必要なんてなかったということ。そんな事をしても誤魔化せないほどの苦味が一瞬にして口の中に広がった。 しかし、それ以外は何ともなかった。何処も痛くも痒くもない。 「雪音さん、横になってください」 「あ、はい」 仰向けになり、目を閉じた。それから3分ほど経過しても、何も変化はなかった。何処も痛くも痒くもない。 あれ、もしかして、こんなもんで終わるの?もしくは、毒が効いていないとか? 「あの、雪人さっ・・・はっ・・・」 「雪音さん?」 息が、出来ない。 「かっ・・・はっ・・・」 心臓が、痛い。 「毒が効き始めたんだろう。雪人、彼女が暴れたら押さえつけるんだ」 「はい」 頭が割れそうに痛い。身体が焼かれるように熱い。全身を針で刺されているような激痛だ。 「雪音ちゃん、頑張るんだ。君なら耐えられる」 視界が、暗くなっていく。 ああ、わたし死ぬんだ。 ──・・・母さん、もしかしたらもうすぐ会えるかも。
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