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「雪音、おっぱい大きくなってない?」
洗顔中のわたしは、泡を思いきり鼻の中に吸い込んだ。
「ゴフォッ・・・オエッ・・・なっ、何を言い出すかな急に」
「いや、久しぶりに裸見たから。もうすっかり大人の身体ねぇ」
「あんまり見られると恥ずかしいんだけど・・・」
「親子で恥ずかしいも何もないでしょ」
「そうだけど・・・」
「わたしなんて年々骨と皮になってくわ。見てこれ」
母さんは湯船から自分の鎖骨を見せた。骨が皮膚を突き破りそうなほど、浮き出ている。
「だったらもうちょっと食べて。母さんの食べる量、わたしの半分だもん。そりゃあ太れないよ」
「雪音と同じ量食べたら母さん死んじゃうわ」
「人を大食いみたいに」
「大食いじゃない。あーっ、母さんもうのぼせそう」
「先上がってて、わたしも体洗ったら出るから」
「髪乾かしてあげるわ」
「・・・どしたの今日は」
「いいじゃない、親子のスキンシップよ」
「スキンシップ、ねぇ・・・」
「・・・雪音」
「ん?」
「あのさ・・・」
その先を待ったが、母さんは何も言わない。
「ん?なに?」
「1つ、聞いてもいい?」
「・・・なに、改まって。なんか怖いんだけど。なに?」
それでも、母さんは躊躇した。よほど言いづらい事なのか。
「あのね、あなたが子供の時、友達と公園で遊んでて・・・未来ちゃん?だったわよね。その子が怪我したの覚えてる?」
ドクンと心臓が跳ねた。まさか、母さんの口からその名前が出てくるとは。
「あー、うん。覚えてるよ」
身体を洗いながら、軽い口調を心がけた。
「その時の事も、覚えてる?」
忘れるわけがない。忘れられたらどれだけ楽か。
「あー、どうだろ。ハッキリとは覚えてないかも。なんで?」
「・・・あの時ね、雪音がわたしに言ったことがあるんだけど」
心臓が早鐘を打ち、鼓動が体内に響く。
なに?何を言おうとしてるわけ?
「なに?」
「幽霊が・・・見えるって」
身体を洗っていた手が、止まった。
──笑え。笑って言うんだ。え?まさか本気にしてたの?って。
「あー、あったね」嘘笑いも上手いごまかしも出来ない自分が憎い。
「あれって、本当なの?」
「・・・どしたのいきなり」
「母さんね、ずっと気になってたの。雪音、あれ以来そーゆうこと言わなくなったでしょ。雪音は昔から嘘がつけない子だったから、もしかしてわたしがあの時・・・」
「たとえば、わたしが今、本当だよって言ったら信じる?」
おどけて言うのは、どうにか成功した。
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