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「やっぱり・・・そうなの?」
「母さん。母さんは信じる?目に目えない物を」
「・・・うーん。母さんはそーゆうの見たことないから・・・でも、雪音が言うなら信じるかな」
──・・・じゃあ、なんであの時は信じてくれなかったの?子供だったから?
心に靄(もや)がかかる。これって、喜ぶべきところなんだろうか。
「正直、覚えてないんだよね。子供って妄想激しいし、お化けとか好きじゃん?幻覚見えてたのかな」
「・・・耳が生えた子が・・・」
「覚えてない。もうこの話やめない?恥ずかしいし」
「雪音・・・」
「母さん、顔が茹で蛸になってるけど大丈夫?」
「・・・そうね、母さんもう限界!」
「上がろっか」
──なんで、今さらこんなことを。
あの日以来、1度も口にした事がないのに。これまで過去の話になっても、未来ちゃんの名前が出た事は1度もなかった。忘れようとしていたのは、母さんのほうだったのに。
その翌日、母さんは死んだ。
いつまで経っても起きてこないのを不思議に思い、わたしは母さんの部屋へ向かった。
ドアを開けると、何故か母さんの身体は宙に浮いていた。
──・・・そうだ。思い出した。
あの時、わたしはその場で呼吸困難に陥り、しばらく気を失っていた。
母さんがお風呂で言った事も、記憶からすっぽり抜け落ちていた。
母さんは、わたしを信じようとしていた。時間はかかったけど、歩み寄ろうとしてくれていたんだよね。
それを、わたしが遮ったんだ。
嘘がつけない、顔にすぐ出るわたしだから、母さんはわかっていたのかもしれない。
ごめん。ごめんね、母さん。
ふと、後ろから誰かに抱きしめられた。
この匂いは──母さんだ。
「母さん?どしたの?」
「雪音は母さんの自慢」
「・・・ホントに、どしたの?そして髪全然乾いてないんだけど、もう終わり?」
「あ、ごめんごめん。長いと時間かかるわねー」
「そのうち切るよ、わたし。卒業したら短くするって決めてるから」
「そーなの?まあ、雪音なら何でも似合うだろうから、母さんはどっちでもいいや」
涙が、目尻から伝い落ちるのがわかった。
それを拭うように何かが触れる。
ああ、わかった。だって、わたしはこの手に何度も救われてきたから。
大きくて、力強くて、優しい、わたしが大好きな──・・・その顔が見えた。
「早坂さん・・・」
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