30人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
「おかえり・・・雪音ちゃん」
早坂さんがわたしの胸に頭を落とした。
身体が、思うように動かない。手を上げるのがやっとだった。早坂さんの頭に触れると、微かに震えている。
わたしを囲んで見下ろす瀬野さん、財前さん、雪人さん。
「やった・・・」 声が掠れた。
「起きて第一声がそれか?」瀬野さんの呆れ笑いが聞こえる。
「よく頑張ったね、雪音ちゃん」財前さんの優しい顔が見える。
「雪音さん、無理に身体を動かさないでください。しばらくは安静が必要です」
「・・・あい」動かしたくても、動けない。
わたしの胸に顔を埋めているこの人は、動かないが大丈夫だろうか。
「早坂さん・・・」どうにか手を動かし、髪を撫でた。
「ん」
「タバコ臭い」
「・・・・・・もう吸わないわ」
「吸いに行ってはすぐ戻ってくるを延々と繰り返してたからな。あとで灰皿見てみろ、無駄にしたシケモクが山になってる」
「・・・お黙り」
「気になってすぐ戻ってくるなら吸わなきゃいいだろう」
早坂さんが顔を上げた。「お黙りっ!居ても立ってもいられなかったのよ・・・雪音ちゃんがピクリとも動かないから」
「あの・・・あれから、どれくらい時間経ってるですか」
早坂さんがわたしの手を握った。
「6時間くらいね。今は15時を回ったところよ」
「えっ、そんなに・・・」 体感としては、さっきの事のようなのに。
「雪音ちゃん、薬を飲んでからのことを覚えているかい?」
「・・・息が出来なくなって、身体が焼かれるような熱くなって、そこからは・・・」
「そうか。苦しんでいたのは最初の数分だけで、その後パタリと動かなくなったんだ。正直最悪の事態も想定したが・・・良かったよ、こうしてまた話せて」
「ふふ・・・わたしもです」
「見た目は死人そのものだったな」
「瀬野さん、笑わせないでください喉がまだ・・・」
「雪音ちゃん、今日は此処に泊まっていくといい。身体にまだ毒が残っているからね。雪人の言う通り、1日は安静が必要だ」
「あ、はい・・・ありがとうございます」
「じゃあ、あたしも泊まるわ」
「えっ」
「まだ安心は出来ないし、あたしがそばで見てるから」
「・・・はあ」それはそれで、落ち着かないような。
財前さんはクスクス笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、僕は用を済ませに出かけてくるよ。雪人、雪音ちゃんを宜しく」
「はい」
部屋を出かけた財前さんが足を止め、こちらを振り向いた。「そうだ。雪音ちゃん、君の頼みだけど、正直僕には自信がなかったよ」
「ええっ!?」
財前さんは声をあげて笑った。「取り越し苦労で済んで良かったよ。じゃあ、また」
最初のコメントを投稿しよう!