黎明

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「おかえり・・・雪音ちゃん」 早坂さんがわたしの胸に頭を落とした。 身体が、思うように動かない。手を上げるのがやっとだった。早坂さんの頭に触れると、微かに震えている。 わたしを囲んで見下ろす瀬野さん、財前さん、雪人さん。 「やった・・・」 声が掠れた。 「起きて第一声がそれか?」瀬野さんの呆れ笑いが聞こえる。 「よく頑張ったね、雪音ちゃん」財前さんの優しい顔が見える。 「雪音さん、無理に身体を動かさないでください。しばらくは安静が必要です」 「・・・あい」動かしたくても、動けない。 わたしの胸に顔を埋めているこの人は、動かないが大丈夫だろうか。 「早坂さん・・・」どうにか手を動かし、髪を撫でた。 「ん」 「タバコ臭い」 「・・・・・・もう吸わないわ」 「吸いに行ってはすぐ戻ってくるを延々と繰り返してたからな。あとで灰皿見てみろ、無駄にしたシケモクが山になってる」 「・・・お黙り」 「気になってすぐ戻ってくるなら吸わなきゃいいだろう」 早坂さんが顔を上げた。「お黙りっ!居ても立ってもいられなかったのよ・・・雪音ちゃんがピクリとも動かないから」 「あの・・・あれから、どれくらい時間経ってるですか」 早坂さんがわたしの手を握った。 「6時間くらいね。今は15時を回ったところよ」 「えっ、そんなに・・・」 体感としては、さっきの事のようなのに。 「雪音ちゃん、薬を飲んでからのことを覚えているかい?」 「・・・息が出来なくなって、身体が焼かれるような熱くなって、そこからは・・・」 「そうか。苦しんでいたのは最初の数分だけで、その後パタリと動かなくなったんだ。正直最悪の事態も想定したが・・・良かったよ、こうしてまた話せて」 「ふふ・・・わたしもです」 「見た目は死人そのものだったな」 「瀬野さん、笑わせないでください喉がまだ・・・」 「雪音ちゃん、今日は此処に泊まっていくといい。身体にまだ毒が残っているからね。雪人の言う通り、1日は安静が必要だ」 「あ、はい・・・ありがとうございます」 「じゃあ、あたしも泊まるわ」 「えっ」 「まだ安心は出来ないし、あたしがそばで見てるから」 「・・・はあ」それはそれで、落ち着かないような。 財前さんはクスクス笑いながら立ち上がった。 「じゃあ、僕は用を済ませに出かけてくるよ。雪人、雪音ちゃんを宜しく」 「はい」 部屋を出かけた財前さんが足を止め、こちらを振り向いた。「そうだ。雪音ちゃん、君の頼みだけど、正直僕には自信がなかったよ」 「ええっ!?」 財前さんは声をあげて笑った。「取り越し苦労で済んで良かったよ。じゃあ、また」
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