黎明

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「頼みってなに?」 すぐに反応したのは早坂さんだ。 「いや、ちょっと・・・」 「ちょっと?」 「気にしないでください」 「すごぉ──────く!気になるわね」 「いいですって!」 「言わなきゃこのままキスするわよ」 人が動けないのをいいことに。ていうか、したじゃん──"さっき"。 「・・・わたしがもし、死んだらのお願いをしてたんです」 「なに?」 早いな。 「早坂さんが暴走しそうになったら、瀬野さんと一緒に正常に戻してくださいって」 「間違いないな」先に反応したのは瀬野さんだ。 「自惚れ発言みたいですけど・・・」 早坂さんは、はあ・・・と息を吐いた。 「自分が死ぬかもしれないのに、あたしの事まで考えてたの?バカね」 「利口だろ、お前が暴走したら大変なのは俺たちだからな」 「お察しします・・・」 早坂さんの手が、わたしの額に触れた。冷たくて気持ちいい。 「疲れたでしょ。目を閉じて寝なさい。あたしは此処にいるから」 「目を閉じてって、当たり前だろ。開けながら寝る奴がいるのか?」 「ああああ、うるさいわね!アンタ仕事でしょ!?さっさと戻りなさいよっ!」 「お前も人任せにばかりしてないで、たまには顔出したらどうだ」 「出してるわよ、いつも!」 「その割にいつも暇そうだけどな」 「自由と暇は別なのよ」 2人の漫才が心地よくて、目を閉じた。目尻から涙が溢れる。 わたし、生きてるんだ。 ───・・・よかった。 午後10時─。 「どお?もう普通に動かせる?」 「はい。痛みはほぼないです」 暗闇の中、わたしは天井に向って腕を上げ下げしている。 「ほぼ、ね。」早坂さんがわたしの手を掴み、布団に下ろした。「完全に回復するまで大人しくしてなさい」 「・・・早坂さん、さっきから何百回も言ってますけど、寝てください」 「あなたが寝たらね」 早坂さんはわたしの隣にピッタリと布団を敷き、肘をついて横になっている。まるで子供を寝かしつけるお母さんのように。 「ずっと寝てから全然眠くないんです。寝てください、わたしはもう大丈夫ですから」 「あたしもなんか目ェ冴えちゃってるのよねぇ」 「昨日全然寝てないのに?」 「・・・鋭いわね」 「誰が見てもわかります。瀬野さんにも言われてたでしょ」 早坂さんは仰向けになり、頭の下で手を組んだ。 「じゃあ子守唄うたって」 「・・・ねーんねーんーころーりーよー」 「棒読みね」 「音痴よりいいかと」 「音痴なの?」 「人前では歌わないって決めてます」
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