30人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
「頼みってなに?」
すぐに反応したのは早坂さんだ。
「いや、ちょっと・・・」
「ちょっと?」
「気にしないでください」
「すごぉ──────く!気になるわね」
「いいですって!」
「言わなきゃこのままキスするわよ」
人が動けないのをいいことに。ていうか、したじゃん──"さっき"。
「・・・わたしがもし、死んだらのお願いをしてたんです」
「なに?」
早いな。
「早坂さんが暴走しそうになったら、瀬野さんと一緒に正常に戻してくださいって」
「間違いないな」先に反応したのは瀬野さんだ。
「自惚れ発言みたいですけど・・・」
早坂さんは、はあ・・・と息を吐いた。
「自分が死ぬかもしれないのに、あたしの事まで考えてたの?バカね」
「利口だろ、お前が暴走したら大変なのは俺たちだからな」
「お察しします・・・」
早坂さんの手が、わたしの額に触れた。冷たくて気持ちいい。
「疲れたでしょ。目を閉じて寝なさい。あたしは此処にいるから」
「目を閉じてって、当たり前だろ。開けながら寝る奴がいるのか?」
「ああああ、うるさいわね!アンタ仕事でしょ!?さっさと戻りなさいよっ!」
「お前も人任せにばかりしてないで、たまには顔出したらどうだ」
「出してるわよ、いつも!」
「その割にいつも暇そうだけどな」
「自由と暇は別なのよ」
2人の漫才が心地よくて、目を閉じた。目尻から涙が溢れる。
わたし、生きてるんだ。
───・・・よかった。
午後10時─。
「どお?もう普通に動かせる?」
「はい。痛みはほぼないです」
暗闇の中、わたしは天井に向って腕を上げ下げしている。
「ほぼ、ね。」早坂さんがわたしの手を掴み、布団に下ろした。「完全に回復するまで大人しくしてなさい」
「・・・早坂さん、さっきから何百回も言ってますけど、寝てください」
「あなたが寝たらね」
早坂さんはわたしの隣にピッタリと布団を敷き、肘をついて横になっている。まるで子供を寝かしつけるお母さんのように。
「ずっと寝てから全然眠くないんです。寝てください、わたしはもう大丈夫ですから」
「あたしもなんか目ェ冴えちゃってるのよねぇ」
「昨日全然寝てないのに?」
「・・・鋭いわね」
「誰が見てもわかります。瀬野さんにも言われてたでしょ」
早坂さんは仰向けになり、頭の下で手を組んだ。
「じゃあ子守唄うたって」
「・・・ねーんねーんーころーりーよー」
「棒読みね」
「音痴よりいいかと」
「音痴なの?」
「人前では歌わないって決めてます」
最初のコメントを投稿しよう!