黎明

28/28

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
「少し、安心したわ」 「・・・・・・え?」 早坂さんを見たが、上を向いたままこちらを見ない。 「高校生のあなたは、ちゃんと高校生だったのね」 早坂さんの言ってる意味がわからず、言葉が出てこなかった。 「それは恨みとは言わないわ。あなたの本心、それだけの話よ。あなたは自力では生きていけない歳で、環境で、その不安をぶつける相手がいなかったのよ。それは恨みじゃない。当たり前の人間が当たり前に思うことよ。あなたは今、お母さんを恨んでる?」 「あっ・・・」声が震えて、うまく言えない。「いえ・・・恨んでなん・・・か・・・」 「だったら、自分を責めるのはやめなさい。あなたがそうやって罪悪感を抱いてることを、お母さんが喜ぶと思う?」 ──暗くて、よかった。わたしの顔は涙と鼻水で大変なことになっている。声を堪えるので精一杯だった。 「あなたは、お母さんにとって自慢の娘だったと思うわ。勝手なこと言うようだけど」 トドメが来た。ズビッと鼻水をすすると、早坂さんがわたしの顔の前に腕を伸ばした。 「拭いていいわよ」 お言葉に甘えて、早坂さんのロンTで顔を拭った。そのまま、早坂さんの手を握る。早坂さんはすぐに握り返してくれた。 「早坂さん」 「ん?」 「ありがとうございます」 早坂さんがフッと笑ったのは、わたしが酷い鼻声だからだろう。 「頑張ったわね。ありがとう」 「・・・なんの、ありがとうですか」 「ん?あなたが頑張って来なきゃ、あなたに会えなかったかもしれないじゃない。だから頑張ってくれてありがとう。よ」 ──その言葉が、どれだけ嬉しいか早坂さんにはわからないだろう。 大変だったね、苦労したね、頑張れ。今までかけられたどの言葉より──"頑張ったわね" その言葉に救われた。 「早坂さん」 ぎゅうっと手を握ると、早坂さんもこっちを向いた。暗闇の中で目が合う。 「ん?」 「そばにいてくれてありがとうございます。出来れば、これからも・・・いてほしいです」 突如、手が振り解かれた。そして、早坂さんがグリンと背中を向ける。 ──あれ、なんか既視感。そしてブツブツと何か唱え始めた。 「呪文ですか」 「ええ、自制心を保つ呪文よ」 「・・・そのまま寝てください」 「そうね。危ないからこのまま寝ることにするわ」 可愛くて、笑えてきた。 「おやすみなさい」 「おやすみ」 ──朝方目が覚めると、すぐ隣に早坂さんがいて、しっかりと手が握られていた。 午前9時5分─。 家まで送ってもらったわたしは、ドキドキしながら部屋のドアを開けた。靴を脱ぎ捨て、駆け足で中に入る。 「空舞さんっ!ただいまっ!・・・・・って、いないんかぁ──い!!」 ええええ・・・ここで待ってるって言ったのに?感動の再会を期待していたのに? 「空舞さんの薄情者・・・」 「何を1人で叫んでいるの?」 「ギャ──ッ!」 声がしたほう、つまりは後ろを振り返ると、開けっ放しのドアの上に空舞さんが居た。 「空舞さん!そこにいたんですねっ!」 「あなたと一緒に入ってきたのよ」 「えっ!今!?」 「ええ、車を降りてからずっと後ろをついてきたのに気づかないんだもの」 「・・・全然わかんなかった」 「遊里は気づいてたわよ。わたしに手を振っていたもの」 「・・・とにかく!また会えて嬉しいです空舞さん!」 「そうね、わたしも嬉しいわ。身体は大丈夫なの?」 「はい、元気モリモリです!」 「そう、良かった。なら言わせてもらうけど、妖怪を見たわ」 「・・・・・・え"っ」 感動?の再会は、一瞬で現実に引き戻された。
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加