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「少し、安心したわ」
「・・・・・・え?」
早坂さんを見たが、上を向いたままこちらを見ない。
「高校生のあなたは、ちゃんと高校生だったのね」
早坂さんの言ってる意味がわからず、言葉が出てこなかった。
「それは恨みとは言わないわ。あなたの本心、それだけの話よ。あなたは自力では生きていけない歳で、環境で、その不安をぶつける相手がいなかったのよ。それは恨みじゃない。当たり前の人間が当たり前に思うことよ。あなたは今、お母さんを恨んでる?」
「あっ・・・」声が震えて、うまく言えない。「いえ・・・恨んでなん・・・か・・・」
「だったら、自分を責めるのはやめなさい。あなたがそうやって罪悪感を抱いてることを、お母さんが喜ぶと思う?」
──暗くて、よかった。わたしの顔は涙と鼻水で大変なことになっている。声を堪えるので精一杯だった。
「あなたは、お母さんにとって自慢の娘だったと思うわ。勝手なこと言うようだけど」
トドメが来た。ズビッと鼻水をすすると、早坂さんがわたしの顔の前に腕を伸ばした。
「拭いていいわよ」
お言葉に甘えて、早坂さんのロンTで顔を拭った。そのまま、早坂さんの手を握る。早坂さんはすぐに握り返してくれた。
「早坂さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
早坂さんがフッと笑ったのは、わたしが酷い鼻声だからだろう。
「頑張ったわね。ありがとう」
「・・・なんの、ありがとうですか」
「ん?あなたが頑張って来なきゃ、あなたに会えなかったかもしれないじゃない。だから頑張ってくれてありがとう。よ」
──その言葉が、どれだけ嬉しいか早坂さんにはわからないだろう。
大変だったね、苦労したね、頑張れ。今までかけられたどの言葉より──"頑張ったわね" その言葉に救われた。
「早坂さん」
ぎゅうっと手を握ると、早坂さんもこっちを向いた。暗闇の中で目が合う。
「ん?」
「そばにいてくれてありがとうございます。出来れば、これからも・・・いてほしいです」
突如、手が振り解かれた。そして、早坂さんがグリンと背中を向ける。
──あれ、なんか既視感。そしてブツブツと何か唱え始めた。
「呪文ですか」
「ええ、自制心を保つ呪文よ」
「・・・そのまま寝てください」
「そうね。危ないからこのまま寝ることにするわ」
可愛くて、笑えてきた。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
──朝方目が覚めると、すぐ隣に早坂さんがいて、しっかりと手が握られていた。
午前9時5分─。
家まで送ってもらったわたしは、ドキドキしながら部屋のドアを開けた。靴を脱ぎ捨て、駆け足で中に入る。
「空舞さんっ!ただいまっ!・・・・・って、いないんかぁ──い!!」
ええええ・・・ここで待ってるって言ったのに?感動の再会を期待していたのに?
「空舞さんの薄情者・・・」
「何を1人で叫んでいるの?」
「ギャ──ッ!」
声がしたほう、つまりは後ろを振り返ると、開けっ放しのドアの上に空舞さんが居た。
「空舞さん!そこにいたんですねっ!」
「あなたと一緒に入ってきたのよ」
「えっ!今!?」
「ええ、車を降りてからずっと後ろをついてきたのに気づかないんだもの」
「・・・全然わかんなかった」
「遊里は気づいてたわよ。わたしに手を振っていたもの」
「・・・とにかく!また会えて嬉しいです空舞さん!」
「そうね、わたしも嬉しいわ。身体は大丈夫なの?」
「はい、元気モリモリです!」
「そう、良かった。なら言わせてもらうけど、妖怪を見たわ」
「・・・・・・え"っ」
感動?の再会は、一瞬で現実に引き戻された。
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