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「あそ。んで?」
「・・・んでって?」
「キスされて、そのあとは?」
「・・・何もない、けど」
「はあ?そこから愛の告白とかはなかったわけ?」
「あの時は、状況が状況だったから・・・告白とかそーゆうんじゃない」
「まあ、キスするってことはそーゆう事だろうけど、早坂さんもハッキリしないわね」
「あのさ・・・早坂さんって、わたしのこと好きなのかな」
「ノロケたいの?」
「いや、そーゆうこと、ハッキリ言われたことないから・・・」
「誰がどう見てもそうでしょ。てかあの人、アンタしか見てないじゃない。ちょっと怖いくらいよね」
「うん・・・早坂さん、わたしの事になると自分を忘れるから、そーゆう怖さはある・・・今のはノロケじゃないから」
「なーんか、羨ましいわぁ・・・」春香はシンクに腰掛け天を仰いだ。「あたしもそこまで想われてみたいもんね」
「想われてる、ねぇ・・・」
「なによ、不満気ね」
「いや、そうだとしても、そこまでなんだよね。そこで終わりっていうか。あの人は決定的な事は何も言わないから。たぶん、言うつもりもない」
前に、言っていた。自分にはさらけ出す勇気がないと。
「キスしといて?」
「うん」
「ずるい男よねぇ〜、まあ、遊び人とは思えないけど。見た目は置いといて」
「・・・ここだけの話だけど、早坂さん、前に付き合った人と何かあったんだよね。たぶん、相当辛い何かが。そーゆうのも関係してるんだと思う」
「トラウマになってるってこと?だから踏み出せないって?」
「うん」
「その割に、独占欲丸出しだけどね。ちゃっかりキスもして。ますますズルい男ね」
あれ、もしかしてわたし、早坂さんの株下げてる?
「アンタは?それでいーの?」
「え?」
「このままでいいのかって。ちゃんと付き合いとか思わないの?」
「・・・あんまり。わたしはただ、一緒にいられればいいかなって」
「かあ〜〜」呆れたように言うと、春香は腕を組み、目の前の冷蔵庫に足をかけた。「健気っつーかなんつーか、アホっつーか」
「おい」
「ま、アンタがいいならいいけど。たぶん、それだけじゃ済まなくなるわよ。この先もっと欲が出て、一緒にいるだけじゃ物足りなくなるはず」
この女が言うと、説得力が凄い。
「まあその時は、アンタからぶっちゅ〜ってしてやればいい」
拭いていた最後の皿を落としそうになり、ギリギリのところで掴んだ。
「出来るか・・・」
「なんでよ?それで早坂さんの気持ちも変わるかもしれないじゃない。受け身ばっかじゃなんも変わんないわよ」
脳内で、シミュレーションをしてみた。
早坂さんの前に立ち、わたしは背伸びをする。そして、早坂さんの顔に近づき、自分の唇を早坂さんの唇に──・・・
「無理っ!!」
「ビックリした・・・なんなのアンタ?」
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