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「・・・なに、今の」
肩をすくめ、目でわたしに訴える。
「あー、いるから、そこに」わたしは自分の右肩を叩いた。
「いるの?・・・鳥が?」
「うん。感覚あるでしょ」
「・・・うん。えっ、あたしも触れるの?」
「ううん。見えない人は実体に触れる事は出来ないんだ。向こうからは可能だけど。不思議だよね」
それを証明するように、空舞さんが突然、翼を広げた。
「ギャ──ッ!!」 春香はその場から逃げ出し、空舞さんはわたしの肩へ移動した。
「空舞さん・・・」
「証明してあげたのよ」
春香は数メートル距離を取った所で狂ったようにピョンピョンと跳ねている。
「今何か頬に触れたっ!!」
「うん、空舞さんの羽根がね」
──こんな春香は、滅多に見られるものじゃない。ニヤけてきた。
落ち着きを取り戻した春香は、遠目からわたしをまじまじと見た。
「ホントだったのね・・・アンタが言ってたこと」
「えっ!信じてくれたんじゃなかったの!?」
「いや、信じてたけど、実際体験するのとは違うじゃない・・・」
そう言う春香だが、まだ信じられないといった表情だ。
「よかった。一回会わせたかったんだよね、空舞さんと。まあ、会ってないけど・・・」
「なんか、アンタが神々しく見えてきたわ」
「ブッ・・・なんだそれ」
「雪音、行くわよ」
「・・・あ、はい。春香っ、帰ろう・・・大丈夫?」
「ええ・・・」
その後、春香はしばらく放心状態が続いた。
家に着くと、空舞さんはすぐにベランダに出た。
「空舞さん、どうですか?」
「いるわね、近くに。ここに来るまでもずっと気配はあったわ」
「わたしを追ってるってことですよね」
「間違いなく」
「でも、空舞さんにも認識出来ないほど素早い妖怪って、なんなんだろ・・・」
「わからないわ。とにかく、あなたが龍慈郎の所に行った晩から、この辺りを小さな何かがうろついてるのは確かよ」
「実は、妖怪でもなんでもない動物だったり?」
「それはないわ。わたしにはわかるもの」
「・・・あ、もしかして今日、心配して来てくれたんですか?」
「それがどうかしたの?」
「空舞さん・・・抱きついてもいいですか」
「断るわ。あなた、そんなに脳天気で大丈夫なの?危険が迫ってるかもしれないのよ」
わたしはベランダの手すりからダランと両腕を垂らした。
「なんか、危険察知能力が鈍ってるんですよね。1回死にかけたからかな・・・」
「だから遊里達にも言わないの?」
「・・・はい。もう何でもかんでも頼るのはやめたんです」
「それであの男が納得するかしら」
「アハッ、確かに。でも、いんです。この先長い目で見たら、わたしばっかり頼ってられないし。強くならねば」
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