28人が本棚に入れています
本棚に追加
人気の無い所まで行き、わたしは息を吸い込んだ。
「テルさーん!いますかー!」 空に向かって、大声──とまではいかないが、叫んだ。
時間にして、僅か10秒。テルさんは目の前に現れた。驚いて開いた口が塞がらなかった。
「どうしました?何かありましたか?」
テルさんは羽根を上下に動かし、わたしの顔の前でホバリングしている。
「今、何処から来ました?」
「近くにいましたよ。あなたをずっと追っていたので」
「そうなんですか・・・あっ、あの人がいたんです!わたしが会った女性・・・大蛇!」
テルさんの耳がピクッと動いた。
「何処で?」
わたしはスーパーを指さした。「レジに並んでたら後ろから話しかけられて、すぐに探したんですけど、何処にもいなくて・・・いや、すぐでもなかったかも」一瞬、身体が硬直して反応が遅れてしまった。
「怪我は?この前のように何処かに傷などはありませんか?」
「あっ・・・いえ、何もないです」
「何と言われたのですか?」
「・・・生き延びて良かった、この身体が羨ましいって」
テルさんが突然、上を向き口を開けた。次の瞬間、強烈な耳鳴りに襲われる。
「ッ・・・」 思わず耳を塞いだが、効果は無い。
脳内に響き、頭痛と吐き気がしてきた。
しかし、それはすぐに収まった。
「雪音さん、大丈夫ですか?」
「だいじょぶ・・・です。凄いですね」
「今のは3割ほどの力です」
「あ、そうですか」
「わたしに気づいていますね。だから、店の中で声をかけたのでしょう。すみません、油断していました・・・前に会った時と姿は変わっていませんでしたか?」
「あ、はい、若い女性の姿でした」
その時、暗闇の空をこちらに向かってくる物体が見えた。1つじゃない、小さな物体が固まって飛んでいる。それはわたしたちの真上に来ると、四方八方に広がった。
「・・・コウモリ?」
「わたしの仲間です。雪音さんはわたしと一緒に自宅へ戻りましょう」
「あ、はい」
家へ向かって歩き出すと、テルさんもわたしの上を飛びながら付いてきた。
「あの、さっきのって仲間を呼ぶためですか?」
「そうです。わたしの仲間には、その女を探してもらいます」
「・・・見つかるでしょうか」
「・・・わかりません。今までの事を考えても、奴は周到に動いている」
「さっきだって、わたしを殺そうと思えば出来たのに・・・まだその時期じゃないってこと?」
前に、財前さんが言ったことを覚えている。数ヶ月に1度脱皮をして、別の人間を食らいまた姿を変えると。
「おそらく。雪音さんの身体を狙っているとしたら、次の脱皮を待っているのでしょう」
「その時に、狙ってくると」
「はい」
最初のコメントを投稿しよう!