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「ていうことは、それまではあの姿のままってことですよね」
「はい。他の者を喰らわなければ、ですが」
「だとしたら、やっぱりわたしを狙わせたほうがいいですよね」
「と、いうと?」
「いや、あの姿のままだったらわたしにはわかるし、姿を変えられてまた一から探すより、狙わせて接触したほうが早いですよね」
「しかし、それには危険が伴います」
「わたしを狙ってる時点で危険に変わりはないし。空舞さんにも言ったんですけど、これはチャンスだと思うんですよね」
「・・・恐れは、ないのですか?」
「怖いですよ」
「そうは見えませんが」
「怖いけど・・・その大蛇をどうにかしたいって気持ちのほうが勝つのかな、たぶん」
「財前さんが言ってました。雪音さんは、いざとなれば1人で動くだろうと。頭より先に身体が動く子だと」
みんなの言う、野生本能というやつか。自覚はないが、わたしよりわたしを知るみんなが言うなら、そうなんだろう。
「財前さんを、死なせたくないんです・・・ぜったい」
「わたしもです。ですが、あなたが1人で動いて何かあれば、財前さんは自分を責めるでしょう。わたしはそんな彼を見たくはありません」
──わかったことが、あった。テルさんは、わたしを守っているんじゃない、財前さんのために、わたしを守っているんだ。それほど、彼にとって大きな存在なんだろう。
「雪音さん」
「ふぁいっ!」
「あなたに会って日はまだ浅いですが、あなたという人間は理解しているつもりです。己を顧みない者は、その分返ってくる物も多い。ご自身、そしてあなたを想う周りの人間のためにも、決して無茶はなさらないでください」
「・・・テルさん」
「はい」
「って、何歳ですか?」
「・・・何年生きているかという話であれば、そうですね、100年は優に超えているかと。何故ですか?」
「いえ、ちょっと気になったもので」
財前さん同様、有無を言わせぬこの説得力。納得した。
その日、わたしの唯一の楽しみである海外ドラマナイトは中止となった。
あんな事があった後では集中出来るわけもなく、買ったワインだけしっかり頂いて眠りについた。
翌日は9時に目が覚めた。
まだ寝れたが、眠い身体を起こし、ブランケットを羽織ってベランダに出た。冷たい空気が一気に眠気を覚ます。
昨日はあれからどうなったんだろう。彼女を見つけられたんだろうか。でも、見つけたらわたしの所にも報告に来るよね。
気になって、仕方がない。テルさんを呼びたいところだが、何もないのに呼ぶのも気が引ける。
「・・・テルさ〜ん」
空に向かい、ほんの小声で呼んでみた。来るわけはないと思っていたが──テルさんは、来た。いつの間にか手すりにいた。
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