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「どうしました?」
驚くのは、何処から来たかまったく見えない事だ。昨日同様、気づけば、そこにいる。
「・・・何処から来ました?」
「わたしは常に近くにいますので」
にしても、だが?
「あの、昨日はあれからどうなりました?」
テルさんは、小さな頭を横に振った。「見つかりませんでした。かなり広範囲まで探したのですが」
「そうですか・・・」
「雪音さん、携帯が鳴っていませんか?」
「えっ、うそ」
部屋に戻りベッドの携帯を見ると、本当だ。着信音は最小の設定なのに、さすが。
相手は早坂さんだ。応答を押し、ベランダへ向かう。
「もしもし」
「もしもし、おはよう。起きてた?」
「おはようございます。さっき起きたところです」
「今、家よね?」
「起きたところですからね」
「どう?何も変わりはない」
──ああ、これは絶対、怒られるパターンだ。
「変わりはないんですけど、昨日、ちょっとありまして。わたしはこの通り元気ですよ?」
「何があったの?」早坂さんの声のトーンが変わった。
「雪音さん、わたしはこれで」
「あっはい!またっ!」
そして、また一瞬で消えた。どの方向に飛んで行ったのかも見えなかった。
「だれ?」
「あ、テルさんです」
「・・・テルさん?」
「はい。財前さんの・・・え、知らないんですか?」
「財前さんの何?」
「何って・・・知り合い?」
てっきり、早坂さんも知っているものだと思ったが──意外だ。
「そこにいるの?」
「いえ、もう飛んで行きました」
「飛んで?」
「はい、コウモリなので」
「あー・・・なるほど。あの、"テル"ね」
「早坂さん?」
「ちなみに、コウモリの"まま"?」
「・・・まま?とは?」
「まあいいわ。それで、昨日何があったの?」
「あー・・・」
「何も省かずにね」
「・・・えーとですね」言われた通り、何も省かずに昨日の出来事を説明した。説明しながら、早坂さんの反応はだいたい予想できた。
そして予想通り、呻き混じりの溜め息が聞こえた。
「なんで昨日言わなかったの」
「ごめんなさい、言っても心配かけるだけと思って。それに、この通りわたしは何もされてないので」
「夜に出歩かないでって言ったわよね」
「それを言ったら仕事が出来ませんが?早坂さん、あまり心配しないでください」
「無理よ」
「・・・わたし、ビクビク怯えながら生活するの嫌なんです。昨日もすぐテルさんが来てくれたし、何とかなりますよ」
「ずいぶん呑気ね」
「それくらいでいいかなって」
また、溜め息が聞こえた。
「ほんと、どこかに閉じ込めておけたらいいのに」
「それは丁寧にお断りしたはずですが?」
「わかってるわよ」
しばらく、早坂さんの家に身を潜めるという早坂さんたってのお願いは却下した。仕事だってあるし、先の見えないこの現状でそれが得策とは思えない。加え、毎日店まで送迎するという提案も即却下した。
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