喋るコウモリ

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後ろに回り込み、距離を取って気づかれないように跡をつける。 人骨はずっと、キョロキョロしている。それに心なしか猫背だ。 「雪音ちゃん、今どこら?」 「えっと、メイン通りを北に進んでます。あっ、路地に入った」 見失わないように、走った。人骨の後を追って路地に抜けると──「あれ・・・」 「どうしたの?」 「いない・・・」 何処に行ったんだ?ここに入ったのは間違いないのに。ビルの隙間の狭い通路は薄暗く、灯りは無い。 「雪音ちゃん、あたしが行くまでそこで待ってなさい」 「でも、見失うかも・・・」 「いいからそこにいなさい」 「・・・先に行ってます。角にワインバーと酒屋がある通路です」 それだけ言って、通話を終了した。 足音を立てないようにゆっくり進む。このまま行くとまた飲食店通りに抜けるのだが、左側のビルとビルの間に狭い通路を発見した。更に暗い。わたしは携帯のライトを点し、奥へ進んだ。 少し進んで見えてきたのは、フェンス。行き止まりだ。そして、──そのフェンスの下で体育座りをする人骨。頭を垂れ、丸っとした頭頂骨がライトに照らされる。 わたしはすぐにライトを消した。このまま早坂さんを待とうと思ったが、突然、バンッバンッという大きな音が響いた。 ──なんだ?バクチク?大方、酔っ払った若者がふざけているんだろう。 そして、ハッとした。人骨を見ると、頭頂骨ではなく、大きな2つの窪みがこちらを向いている。目こそ無いが、確実にわたしを捉えていた。 「アンタ・・・オレが見えるのか?」 ──・・・聞き間違いだろうか。振り返ってみたが、誰もいない。この骨、今、喋った? 「見えるんだろ・・・」 歯が上下に動いている。間違いない。声帯など存在しないが、声はこの骨から発せられている。 「なあ・・・見えるのか?」 ──これは、応えるべき? そうだ。"人"として、話しかけられたら応えるべきだ。 「はい、見えますが・・・」 人骨は口を開けたまま、動かない。これは、驚いているのか?すると突然、ポキポキと音を立てて人骨が立ち上がった。ギョッとして一歩後退する。 そうかと思ったら、今度は両手を広げわたしに向かってきた。 「助けてくれぇぇぇぇぇぇ」 「えっ・・・ギャ──ッ!」 その時、わたしの身体がグッと後ろに引き寄せられた。 一瞬の事で何が起きたかわからず、気づけば人骨は大きな手に頭蓋骨を掴まれ、壁に打ちつけられていた。 「いてぇ!いてぇよぉ!離してくれぇぇぇぇ」 人骨は手足をジタバタさせてもがいている。 ──何が、起こった? わたしの肩には、後ろから腕が回されている。早坂さん? 「大丈夫ですか?」 「・・・えっ」 違う。誰?──あれ?この声、どっかで聞いたような。 「何してるの?」 今度は早坂さんの声がした。顔だけ横を向くと、そこに居た。じゃあ、わたしの後ろにいるこの男は、誰? 振り向こうにも、身体を後ろからがっちりホールドされ振り向けない。 「何してるかって聞いてるの」 早坂さんは指をさした。わたしに回された腕を。すると、すぐ腕が離れた。 「失礼しました」
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