喋るコウモリ

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わたしはすぐに後ろを振り返った。 若い、男性だ。おそらく20代後半。身長は早坂さんと同じくらい。目にかかる髪の毛は少しうねっていて、暗闇ではハッキリと見えないが、おそらく"イケメン"。 「雪音さん、怪我はありませんか?」 「えっ」 今、わたしの名前言ったよね?それに、やっぱりこの声、ぜったい何処かで聞いたことがある。 「あの、もう1度なんか喋ってもらえませんか?」 「・・・何故ですか?」 ほら、この声。この喋り方──・・・「あっ!テル・・・さん!?」 「はい。気づきませんでしたか?」 「気づ・・・くわけないですよね?」 なんで、テルさんが人間なんだ?コウモリでは? 突然、腕を引っ張られ、テルさんから引き離された。早坂さんは後ろからわたしの肩に腕を回し、頭に顎を乗せた。 「ちょっと早坂さんっ」 「近いのよ」 ──どっちが? 「遊里さん、ご無沙汰してます」 「そうね、100年ぶりくらいかしら?」 ──あれ?電話じゃあテルさんのこと知らないような口振りだったけど、顔見知りなのか?それに、早坂さんの言い方には何処となくトゲを感じる。 「ていうか!なんでテルさんが人間なんですか!?」 「なに、興味あるの?」 「いや、あるでしょ普通!」 「それよりまず、そのカタカタ動いてるのから片付けましょ」 「あっ」 テルさんに気を取られてスッカリ忘れていた。人骨は頭を押さえつけるテルさんの手を剥がそうと必死になっている。 「離してくれ!頼む!」 いい加減、可哀想になってきた。 「テルさん、離してあげてください」 「・・・離しても逃げないと誓え。いいな?」 言い方は穏やかだが、威圧感が凄い。 「わかった!だから離してくれぇ!」 テルさんが手を離すと、人骨はその場にカタカタと音を立てて座り込んだ。 「面白いわね」 早坂さんが喋ると頭が揺れた。わたしは早坂さんの手から逃れ、人骨に一歩近づいた。 「あの、さっき言ってましたよね。助けてって・・・どーゆう事ですか?」 すると、人骨が顔を上げた。近くで見ると、不気味極まりない。わたしだって"肉の下"にはこれと同じ物があるのに、骨だけだとどうしてこうも恐ろしく見えるのか。 「アンタ・・・美人だなぁ」 わたしに手を伸ばす人骨の顔に、早坂さんのスニーカーがめり込んだ。 「ちょっ、何してんですか!」 「次触ろうとしたら、その首へし折るわよ」 「わかった!わかったから!暴力はやめてくれよぉ・・・」 なんていうか、臆病なんだな、この人骨。
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