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「悪い妖怪じゃあないですよね」
「判断材料がないけど、おそらくね。人間を襲ったことがないってのは本当だと思うわ」
「よかった」
「"千代松さん"がね」
「え?」
「あなたがいなければ、とっくに始末されてるわよ」
「・・・どーゆうことですか?」
「あの男」早坂さんが顎でさしたのは前を歩くテルさんだ。「誰も信用してないから。財前さん以外」
「ええ・・・?」
「何も反論してこないのが証拠よ。あの耳は、あたし達の呼吸だって聞こえてるわ」
テルさんは、こちらを振り向くこともなく静かに歩いている。というか、聞こえてるなら尚更こんな話はしたくないのだが。
「呼んだらすぐ来てくれるし、心強いですよ」これはフォローではなく、本心だ。
「へえ・・・あたしのことは呼ばないくせに」
「それとこれは話が別です」
「同じよ。迎えに行くって言っても嫌がるし」
「言ったじゃないですか、わたしは出来るだけ普通にしていたいんです」
「あたしがおかしくなりそうだわ」
「・・・そこは、どうにかしてください」
「あたしの言うことなんて1つも聞かないんだから・・・そう!さっきもよ!」
ああ、このまま触れずに終われると思ったのに。
「あたしはそこで待ってなさいって言ったわよね?どうして待てないの?」
「・・・もう、慣れたのでは?」
「開き直るんじゃないのっ。危ない奴だったらどーするの?襲われてたかもしれないのよ?まったく、いつも後先考えずに動くんだから」
わたしは前に観た、主人公の女性が嫁いだ先で口うるさい小姑に悩まされるドラマを思い出していた。
早く着いてくれないかなと思ったところで、千代松さんが足を止めた。
「ここだ」
「えっ・・・ここ!?」
それはなんと、公園だった。都心部にあるこの公園は広々とした芝生や運動用具が備えられ、春になると広場を囲む桜が開花するため、花見に訪れる人も多い。
「そうだ。ここがオレの家だ」
「家っていうか・・・まあいいや。ここにお兄さんと住んでいて、突然いなくなったんですね」
「そうだ。起きたらいなかった」
「どっか遊びに行ってるんじゃない?」 早坂さんは心底どうでもよさそうだ。
「いや、おかしい。こんなに帰ってこねぇのは初めてだ。何かあったとしか思えねぇ・・・」
「何かって、何がある?ガイコツに」
「オレに何も言わず消えるわけねぇんだ!」
テルさんは辺りを見回しながら、芝生がある方へと歩いて行った。わたしも後に続く。
そしてピタリと足を止め、その場に膝をついてしゃがんだ。
「匂いが残っている」
「匂い、ですか?」
「ええ、コイツと似た匂いが残っています」
「そこだ!いつも兄ちゃんが寝てる場所!」 千代松さんが、テルさんの足元を指さした。
ふと、浮かび上がった疑問。お兄さんも骨なんだろうか。
「それともう1つ、別の匂いが」
「別の匂い?どーゆうことですか?」
「此処に、別の何かが居たようですね」
「別の何かって・・・妖怪ってことですか?」
「ええ」
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