喋るコウモリ

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「お兄さんがいなくなったのと、関係者あるのかな・・・」 「あああああ」千代松さんは頭を抱え、膝から崩れ落ちた。「どうしよう・・・ソイツに食べられたんじゃあ・・・」 「そんな物好きいるかしら?」 早坂さんは頭の後ろで手を組み、つまらなそうにしている。 「早坂さん、真剣に考えてあげてくださいよ」 「て言っても、あたしらには何も出来ないわよ。テル、あなたの嗅覚で探せないの?」 「そうですね、匂いが残っていれば追うことは可能ですが」 「お願いします!」 テルさんは無表情でわたしを見つめた。「何故ですか?会ったばかりの妖怪に何故そこまで?」 「・・・それを言うなら、テルさんとわたしだって会ったばかりじゃないですか」 「あなたは人間です」 「・・・人間だろうと妖怪だろうと、困っていれば同じです」 「コイツが本当は、危険な妖怪だったらどうするんですか?何か恐ろしい事を企んでいたら?タイミングを考えても、コイツがあの女と関わりがないとは言い切れない」 「それはさすがに、考えすぎじゃあ・・・」 「コイツを使って、あなたを陥れようとしていないと、言い切れますか?」 ──穏やかな口調なのに、この圧はどこから来るんだ? 「そうだとしたら・・・その時、対処しましょう!」 テルさんは表情を変えず、わたしを見ている。 「何言ったって無駄よ。猪突猛進だから。放っておけば1人で動くわ」 ──この男、さっきの事根に持ってるな。 「わかりました、やってみましょう。ついてきてください」 そう言うと、テルさんは公園を突き抜けるように歩き始めた。そして公園を出た所で止まり、嗅覚を研ぎ澄ませる。 「こっちです」 それから、20分は歩いた。テルさんは所々で立ち止まり匂いを確認しながら進み、最終的に辿り着いたのは───「神社?」 「ええ、この先に続いてますね」 鳥居の向こうには傾斜がそこそこの長い階段が続いている。 「これ・・・上るのか?」 千代松さんが不安そうに言った。 「上れますか?」 「オレ、階段は駄目なんだよ。すぐ疲れちまう」 わたしは早坂さんを見た。 「なに、その目。あたしは嫌よ」 「わかりました。千代松さん、わたしの背中に乗ってください」 千代松さんに背中を向けると、早坂さんがすかさず千代松さんの頭を掴んだ。 「わかったわよ。やればいいんでしょ」 溜め息混じりに言い、早坂さんは千代松さんに背を向けて屈んだ。「5秒以内に乗らないと引きずって連れてくわよ」 「すまねぇ、助かる」 千代松さんは早坂さんの背中に乗り、手足を巻きつけた。その姿が妙に可愛くて、笑えてきた。 「今笑ったわね」 「いえまったく」 「ちょっと、あんまりしがみつくんじゃないわよ」 「あんた身体がでけぇから、そうじゃねぇと落っこっちまうよ」 早坂さんはうんざりしたように天を仰いだ。 「ったく、なんであたしがこんなこと・・・」 階段を上りながら、2人は何度か言い争っていた。顔が近いだの、首に骨が当たって息が出来ないだの、それを聞きながらわたしは笑いを堪えるのに必死だった。
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