28人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄さんがいなくなったのと、関係者あるのかな・・・」
「あああああ」千代松さんは頭を抱え、膝から崩れ落ちた。「どうしよう・・・ソイツに食べられたんじゃあ・・・」
「そんな物好きいるかしら?」 早坂さんは頭の後ろで手を組み、つまらなそうにしている。
「早坂さん、真剣に考えてあげてくださいよ」
「て言っても、あたしらには何も出来ないわよ。テル、あなたの嗅覚で探せないの?」
「そうですね、匂いが残っていれば追うことは可能ですが」
「お願いします!」
テルさんは無表情でわたしを見つめた。「何故ですか?会ったばかりの妖怪に何故そこまで?」
「・・・それを言うなら、テルさんとわたしだって会ったばかりじゃないですか」
「あなたは人間です」
「・・・人間だろうと妖怪だろうと、困っていれば同じです」
「コイツが本当は、危険な妖怪だったらどうするんですか?何か恐ろしい事を企んでいたら?タイミングを考えても、コイツがあの女と関わりがないとは言い切れない」
「それはさすがに、考えすぎじゃあ・・・」
「コイツを使って、あなたを陥れようとしていないと、言い切れますか?」
──穏やかな口調なのに、この圧はどこから来るんだ?
「そうだとしたら・・・その時、対処しましょう!」
テルさんは表情を変えず、わたしを見ている。
「何言ったって無駄よ。猪突猛進だから。放っておけば1人で動くわ」
──この男、さっきの事根に持ってるな。
「わかりました、やってみましょう。ついてきてください」
そう言うと、テルさんは公園を突き抜けるように歩き始めた。そして公園を出た所で止まり、嗅覚を研ぎ澄ませる。
「こっちです」
それから、20分は歩いた。テルさんは所々で立ち止まり匂いを確認しながら進み、最終的に辿り着いたのは───「神社?」
「ええ、この先に続いてますね」
鳥居の向こうには傾斜がそこそこの長い階段が続いている。
「これ・・・上るのか?」 千代松さんが不安そうに言った。
「上れますか?」
「オレ、階段は駄目なんだよ。すぐ疲れちまう」
わたしは早坂さんを見た。
「なに、その目。あたしは嫌よ」
「わかりました。千代松さん、わたしの背中に乗ってください」
千代松さんに背中を向けると、早坂さんがすかさず千代松さんの頭を掴んだ。
「わかったわよ。やればいいんでしょ」 溜め息混じりに言い、早坂さんは千代松さんに背を向けて屈んだ。「5秒以内に乗らないと引きずって連れてくわよ」
「すまねぇ、助かる」
千代松さんは早坂さんの背中に乗り、手足を巻きつけた。その姿が妙に可愛くて、笑えてきた。
「今笑ったわね」
「いえまったく」
「ちょっと、あんまりしがみつくんじゃないわよ」
「あんた身体がでけぇから、そうじゃねぇと落っこっちまうよ」
早坂さんはうんざりしたように天を仰いだ。
「ったく、なんであたしがこんなこと・・・」
階段を上りながら、2人は何度か言い争っていた。顔が近いだの、首に骨が当たって息が出来ないだの、それを聞きながらわたしは笑いを堪えるのに必死だった。
最初のコメントを投稿しよう!