喋るコウモリ

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階段を上り切り、参道を少し進んだところでテルさんは足を止めた。 「匂いはここで途切れてますね」 「えっ、ここで?」 参道の先には小さな社殿が見えるが、この周りには何も無い。わたしたちを囲むように木が生い茂っているだけだ。 「いつまで乗ってんのよ。さっさと降りなさい」 「あ、すまねぇ」 千代松さんは早坂さんの背中から降りると、辺りをキョロキョロと見回した。「兄ちゃん、何処に行っちまったんだ・・・」 「とりあえず、先に進んでみますか?」 「兄〜〜〜ちゃ〜〜〜〜ん!!」 突如発せられた叫びに、肩がビクッと跳ねた。 普通の人間には聞こえないからいいものの、心臓に悪い。 「何処にいるんだぁ〜〜!居るなら返事してくれぇ〜〜〜!!」 その返事が返ってくることを願ったが、何も聞こえてこない。 「兄ちゃ〜〜〜ん!オレだぁ〜〜〜ッアガッ・・・ガッ・・・」 千代松さんの兄に対する呼び掛けは、テルさんによって遮断された。 「黙れ」  千代松さんは、喋ろうにも喋れない。テルさんによって口を塞がれているから。この人、やっぱり怖い。 しかし、それにはワケがあったようだ。テルさんは千代松さんを離すと、上を向いた。 つられてわたしも上を見る。何か、見えるのか? 「お〜〜い、ここだ〜〜」 ──ん?今、声が? 「ここだよぉ〜〜、助けてくれぇ〜〜」 間違いない。とても遠くから聞こえる。 「今、聞こえました?」 「ええ、いますね」 そう言ってテルさんが指さしたのは、空だ。 「え?どこに?」 「木の上です」 「・・・・・えっ!」 参道を囲うように生えている杉の木。高さは20メートルはあるだろう。暗闇でわたしの目には何も見えない。 「木の上にいるんですか?お兄さんが?」 「コイツの兄かは知りませんが、骨ですね」 いや、絶対そうじゃん。 「兄ちゃんだ・・・お〜〜い!兄ちゃ〜〜ん!オレだ!千代松だ〜〜!」 「・・・千代松か!?頼む!助けてくれぇ〜〜」 「・・・なんで、木の上にいるんだろう」 「木登りでもしてたんじゃない?」早坂さんは帰りたいオーラ全開だ。 「それはねぇ!兄ちゃんは臆病なんだ、そんなことするはずがねぇ・・・」 それに関しては、非常に説得力があった。 「でも、自分で登ったんじゃないとしたら・・・」 「"誰か"に連れて行かれたのね」 「そう考えるのが妥当ですね。今のところ、近くに妖怪の気配はないですが」 「じゃあ、今のうちにお兄さんを助けなきゃ」 ──でも、どうやって?あんな高い所にどうやって行けば。 「ジャンプして降りればいいじゃない」 「この高さですよ、骨がバラバラになっちゃうんじゃ・・・」 「くっつければいいじゃない」 「・・・そんな、プラモデルじゃないんだから」 あの高さまで行く方法 ──・・・「あっ!テルさん、コウモリの姿だったら行けますよね?」 「行くことは可能ですが、そこからはどうしますか?」 「・・・そっか、コウモリの姿じゃ運べないか」 「上まで行ったら人間になってロープで降ろせば?あなたはそのあと戻ってくればいい」
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