喋るコウモリ

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わたしは思わず、早坂さんの肩を掴んだ。 「早坂さん、天才」 「・・・そお?じゃもっと褒めて」 早坂さんはわたしのウエストに腕を回し、抱き寄せた。 「ちょ・・・っと!何してるんですか!」 「ご褒美よ」 わたしの頭に自分の頬をグリグリと撫で付ける。 「ちょっ・・・離してくださいっ」 「しかし、そのロープは何処から?」 テルさんが冷静に言った。そして心なしか、凄く嫌そうだ。わたしは早坂さんの身体を押しやった。 「そこですよね・・・この時間だと店も閉まってるし、何かないかな」 「もう明日でいいんじゃない?」 「そっ、そんな・・・頼む!助けてくれ!この通りだ!」 千代松さんは掌を擦り合わせ、頭を下げた。 「あー、コンビニに紐なら売ってるんじゃない?」 「紐?」 「ほら、段ボールとか括るビニールの紐あるじゃない」 「ああ、なるほど!でも、耐久性大丈夫かな・・・」 「大丈夫よ、その骨、アホみたいに軽いもの」 「・・・よし。ここに来る時、コンビニ何軒かありましたよね、わたしちょっと行って買ってきますね!」 「あー、あたしが行くわ。あなたはここで待ってなさい」 「や、でも・・・」 早坂さんは、わたしをジッと見据えた。顔に書いてある、言うこと聞けないの?と。 「じゃあ、お願いします」 「あいあい」 「待ってください」 わたしと早坂さんは、同時にテルさんを見た。 「どーしたんですか?」 「何か、来る」 テルさんは空を見上げ、険しい顔をしている。 それから数秒も待たずして、その何かが姿を現した。暗闇の中でも、シルエットは見えた。大きな翼を広げ、空を飛行する生物。見た目は鳥そのものだが、その大きさは普通ではない。この距離でも、それがわかった。 「連れ去った張本人のお出ましってわけね」 その鳥が木に留まると、そこだけ小石や小枝が落ちる音がした。 「ぎゃああああ!来るなっ!あっち行けぇぇぇ!」 遥か上から、悲痛な叫び声が聞こえた。 「兄ちゃん!だっ、誰か、助けてくれぇ!」 「テルさん!上で何が起きてるんですか!?」 「おそらく、食べようとしていますね」 「えええ!?何をそんな冷静に言ってるんですか!どうにか出来ませんか!?」 「出来なくはないですが・・・」 なぜだ、なぜ、この男どもはこんなに冷静でいられるんだ?相手が妖怪だから? 「じゃあやってください!」 「遊里さん、あとはお願いします」 「あいあい」 早坂さんに目を向けた一瞬、テルさんはその場から消えていた。気づけば、テルさんの着ていた服だけがその場に落ちている。 「あれ!?テルさんは!?」 早坂さんが木の上を顎でさした。「行ったわよ」 「・・・何するんだろう、大丈夫かな」 すると、早坂さんがおもむろに背中からナイフを取り出した。革張りの鞘をわたしに預ける。 「何するんですか?」 その時、耳に激痛が走った。──これは、テルさんの超音波だ。凄い、これだけ離れているのに、なんて威力だ。 早坂さんも片耳を押さえ、わずかに顔をしかめている。
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