喋るコウモリ

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千代松さんはわたしの近くに来ると、突然、土下座をした。 「・・・え"っ」 「雪音、ありがとうな!お前は優しい女だな。感謝してもしきれねぇよ」 「なにこの骨、あたしらの存在は無視なわけ?」 「・・・優しくしないからですよ。また会えたら会いましょうね」 千代松さんはパッと顔を上げた。「また会ってくれるのか?オレたちはあの家に居るから、いつでも遊びに来てくれよ!」 「行かないわよ」 「こんな事があったし、家は変えたほうがいいような気もするけど・・・わかりました」 「わからなくていいのよ」 「ほら、兄ちゃんも雪音に礼を言えよ」 「とことんあたしは無視なのね」 お兄さんはおずおずと近くに来ると、わたしに手を伸ばした。 「兄ちゃん駄目だっ・・・」 千代松さんの呼びかけも虚しく、お兄さんの顔に早坂さんの足が めり込んだ。 「ぎゃあああ!ごめんなさい!ごめんなさい!」 お兄さんは千代松さんの背中に隠れた。 「はーやーさーかーさん!!」 「帰るわよ」しれっと言い、早坂さんはわたしの手を掴んだ。 連行されながら振り返り、手を振ると、千代松さんの背中から顔を覗かせたお兄さんが控えめに手を振り返した。どうやらお兄さんは、臆病に加え、シャイならしい。 階段に差し掛かったところで、早坂さんは突然わたしの前にしゃがんだ。 「なんですか?」 「乗って」 「はい?」 「骨の感触が残って気持ち悪いのよ。あなたで上書きするわ」 これまでのわたしだったら、絶対拒否していた。しかし今は、この人に触れたいという純粋な気持ちが何よりも勝る。 わたしは無言で早坂さんの背中に乗った。 早坂さんはフッと笑い立ち上がった。「素直ね」 ──早坂さんの背中に身を預けながら、わたしは思い出していた。あの"キス"の事を。あれ以来、早坂さんはその事にまったく触れてこない。 "文句は起きてから聞くわ"。あの時、そう言っていたけど、わたしは何か言うべき? 時間が経つにつれて、あのキスが無かった事のように感じて、それが少し辛い。 「静かね。考え事してる?」 「・・・早坂さんこそ」 「あたしは噛み締めてるのよ。あなたの体温と柔らかさを。フフ」 柔らかさ──・・・そういえば、早坂さんの唇も柔らかかったな。柔らかかったし、激しかった。 頭に血が上り、わたしは早坂さんの首に顔を埋めた。 「あの、雪音ちゃん。嬉しいんだけど、首に息はやめてほしいわ・・・」 早坂さんの戸惑い口調に、ニヤリと笑みが出た。 「首、弱いんですね?」 わたしは早坂さんのうなじに向かって思い切り息を吹きかけた。 「ぎゃっ!コラっ、やめなさい!階段なんだから危ないでしょ!」 わたしが優勢に立てることなんて、まずない。ここぞとばかりに"攻撃"してやった。 すると早坂さんは駆け足で階段を下り始めた。それがジェットコースターのようで、わたしはバカみたいにテンションが上がった。 「ひゃっほ〜〜」 程なくして下に到着した早坂さんは、今まで見たことがないくらい息が切れていた。 「大丈夫ですか?」 「ハァ・・・ハァ・・・大丈夫じゃないわよ」
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