虎視眈々

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「昨日、女の人とぶつかってスマホを落とした時に、その人の爪で手に傷をつけられたみたいなんです。それが化膿してるみたいで・・・」 「うん、それで?」 「その女の人っていうのが、黒髪で腰くらいの長さで、色が白かったって。わたしが会ったあの人と同じなんです。スマホを落として拾った時に傷つけられたってのも一緒だし・・・このタイミングで、こんな偶然ありますか!?」 「・・・春香ちゃんの傷は?見たの?」 「いえ、パッドを貼ってたので。アザは見えなかったけど・・・どうしよう・・・なんで春香を狙うんですか?あの人が狙ってるのはわたしでしょ?」 「雪音ちゃん、落ち着いて」 「落ち着いてなんかっ・・・」 「1番近くにいるあなたが、動揺してはダメよ。春香ちゃんのためにも。いいわね?」 早坂さんはわたしを落ち着かせるように、ゆっくりと、冷静に言った。 「・・・はい」 わたしはもう一度、大きく深呼吸をした。 「春香ちゃんが傷をつけられたのは昨日よね?あなたの時はその日のうちにアザが出たから、今頃出ていてもおかしくはないはずだけど・・・」 「あ・・・確かに。じゃあ、ただの傷ってことですか?春香もアザが出るとは限らないですよね?」 「こればかりは、なんとも言えないわね・・・ただ、本当にソイツの仕業だったら、確実に目的があるわ。とにかく、注意して見ていて。もしアザが出たらすぐに連絡ちょうだい」 「・・・わかりました」 通話を終え、わたしは急いで更衣室に戻った。 春香はソファーに座り、パンを食べながら携帯をいじっている。 「はやっ、大丈夫?よくなった?」 「え?あ・・・うん、わたしは大丈夫」 「まだ顔色悪いわよ、少し横になったら?」 「いや、大丈夫」わたしは春香の隣に座った。「春香、その傷口、見せてくれない?」 「・・・なんで?」 「あー・・・前にさ、小さな傷から化膿してかなり酷い事になって、もしかしたら春香もかなって」 「いや、あたしの場合、見た目は全然なのよ。ただ痛みが酷いってだけ」 「見せて」 「・・・まあいいけど」 無意識に、手に力が入る。お願い。お願い。 春香がゆっくりとパッドを捲り、わたしは身体の力が抜けて春香の肩にもたれ掛かった。 「よかった・・・」 「だから見た目は全然だって言ったでしょ。てか大袈裟すぎない?薬だって貰ってるから」 「・・・うん。でも、こまめにチェックして。悪化するかもしれないし、ね?」 「アンタ、なんか変よ?大丈夫?」 ──大丈夫じゃないよ。春香に何かあったら、わたしは一生自分を許せない。
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