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フロアの鮮やかなライトとは違い、そこはオレンジ色のシャンデリアが1つ吊るされている薄暗い、落ち着いた部屋だった。丸テーブルを挟んで赤い革張りのアンティークなソファーが2つ設置されている。
その1つに、彼女が仰向けに横たわっていた。肘掛けを枕にしてお腹の腕で手を組み、目を瞑っている。真っ黒のブラウスに黒いロングスカート。それが彼女の白さを不気味なほど際立たせている。
後ろ手でドアを閉めると、ここだけ別世界のように静かになった。そして彼女がゆっくりと目を開けた。仰向けになったまま、目だけでわたしを捉えた。
「ああ、いらっしゃい。待ちくたびれて寝てしまったよ」彼女はゆっくりと起き上がると、ソファーの背もたれに寄り掛かり、足を組んだ。「人間の身体というのは、どうしてこうも眠くなるんだろうね」そう言って大きくあくびをする。
わたしに出来るのは、彼女の動向から目を離さないことだけだった。彼女はわたしを見てフッと笑った。
「そんなに警戒しなくていい、何もしないよ。まず、座りなさい」
わたしが黙っていると、彼女はソファーに座るよう手で促した。
「その前に、約束してください。わたしの周りの人間に何もしないって。そしたら、わたしもあなたの言うことを聞くんで」
彼女はガクリと頭を垂れると、すぐに顔を上げてうっとりと微笑んだ。
「君は本当に、話が早くて助かるよ。恐れ入った。もちろん、約束しよう。君の返答次第、だがね」
彼女がもう1度座るように促し、わたしは向かいのソファーに腰掛けた。
「何か飲むかい?」
わたしは首を横に振った。
「では、さっそく本題に入ろう。長引いては君の小さな護衛が心配するからね」
──テルさんのことか。この人は、何処まで知っているんだ?
「私が君を呼んだ理由は、わかるかい?」
「はい」
彼女はわざとらしく驚いた表情を見せた。「是非、聞かせてもらいたいな」
「わたしの身体が欲しいんでしょう」
彼女はまた驚いたように目を丸くすると、パチパチと拍手をし出した。
「素晴らしい!君の表情からは恐れがまったく見えないよ!」彼女はテーブルにあるストレートのウイスキーをグイッと飲み干した。「それで・・・君の答えは?」
「・・・今やったらどうです?誰もいないし、絶好のチャンスでは?」
彼女はジッとわたしを見据え、黙り込んだ。その顔は何処か笑っているようにも見える。
「何故、そうしないと思う?」
「さあ・・・今はまだ出来ないとか?この部屋じゃ"大蛇"になった時に狭すぎるとか?」
彼女が目を見張った。今回は演技ではない。
「ハハハハハ!」彼女は突然、気が触れたように声を上げた。何が可笑しいのか、身体を小刻みに揺らしながら盛大に笑っている。そしてひとしきり笑うと、その口からニョロっと舌を覗かせた。
背筋が凍りついた。それは人間の舌ではない、細長く二股に分かれた正しく蛇特有の物だった。
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