始まり

5/14
前へ
/427ページ
次へ
——— まずい。 一瞬焦ったが、こういう時の対処法は学んでいる。 わたしは落とした袋を冷静に拾い上げた。 そして何事も無かったように、家へと歩き出す。平常心、平常心と自分に言い聞かせながら。 でも、すぐにそれが打ち砕かれた。 え・・・ついて・・・きてる・・・? 確認したくても、振り返る勇気がない。でも、間違いなく、後ろに何かを感じる。 一気に鼓動が早まり、冷や汗が込み上げる。 どうしよう —— このまま家に帰ったら、"彼女"まで? 次の行動を起こすまで、コンマ1秒もかからなかった。 わたしは右手に見える路地に、吸い込まれるように入り込んだ。決して走らず、歩きと言えるギリギリの速さで駆け抜ける。 ここら辺は道路が入り組んでいるし、どうにか"撒ける"かも。わたしはそのまま突き進み、また抜けれる道を探した。 ——— えっ、ちょっと待って。まさか・・・。 鼓動が更に早まるのを感じる。 抜け道なんて見当たらない。見えるのは、レンガ積みの高い塀だけ。 待て待て待て!! そして次の瞬間、早鐘のように打っていた鼓動が、一瞬、止まった。それと同時に、わたしの足も止まる。 行き止まりだ。 ———いや、 落ち着け。落ち着けわたし。 次にわたしがすることは、まず、振り返ることだ。"居る"と決まったわけじゃない。 もしかしたら、ついて来てると勘違いしていただけかも。 そうだよ、絶対そうだ。 わたしは至って冷静に、そしてゆっくりと、後ろを振り向いた。 10秒、いや、もしかしたらもっと経っていたかもしれない。わたしは無言のまま、その場に立ち尽くしていた。 正確に言えば、見つめ合っていた、かもしれない。 さっきコンビニの前で見た彼女が、そこに居た。距離にすれば2メートル程前。 側にある街灯のおかげ(せい)で、その地面を引きずる長い髪と真っ黒な目が、ハッキリと見える。背丈はわたしと同じくらい。 白いノースリーブのワンピース姿で、手足は普通の人間と同じ。ただ、異常なくらい細く、裸足だ。
/427ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加