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——— まずい。
一瞬焦ったが、こういう時の対処法は学んでいる。
わたしは落とした袋を冷静に拾い上げた。
そして何事も無かったように、家へと歩き出す。平常心、平常心と自分に言い聞かせながら。
でも、すぐにそれが打ち砕かれた。
え・・・ついて・・・きてる・・・?
確認したくても、振り返る勇気がない。でも、間違いなく、後ろに何かを感じる。
一気に鼓動が早まり、冷や汗が込み上げる。
どうしよう —— このまま家に帰ったら、"彼女"まで?
次の行動を起こすまで、コンマ1秒もかからなかった。
わたしは右手に見える路地に、吸い込まれるように入り込んだ。決して走らず、歩きと言えるギリギリの速さで駆け抜ける。
ここら辺は道路が入り組んでいるし、どうにか"撒ける"かも。わたしはそのまま突き進み、また抜けれる道を探した。
——— えっ、ちょっと待って。まさか・・・。
鼓動が更に早まるのを感じる。
抜け道なんて見当たらない。見えるのは、レンガ積みの高い塀だけ。
待て待て待て!!
そして次の瞬間、早鐘のように打っていた鼓動が、一瞬、止まった。それと同時に、わたしの足も止まる。
行き止まりだ。
———いや、 落ち着け。落ち着けわたし。
次にわたしがすることは、まず、振り返ることだ。"居る"と決まったわけじゃない。
もしかしたら、ついて来てると勘違いしていただけかも。
そうだよ、絶対そうだ。
わたしは至って冷静に、そしてゆっくりと、後ろを振り向いた。
10秒、いや、もしかしたらもっと経っていたかもしれない。わたしは無言のまま、その場に立ち尽くしていた。
正確に言えば、見つめ合っていた、かもしれない。
さっきコンビニの前で見た彼女が、そこに居た。距離にすれば2メートル程前。
側にある街灯のおかげ(せい)で、その地面を引きずる長い髪と真っ黒な目が、ハッキリと見える。背丈はわたしと同じくらい。
白いノースリーブのワンピース姿で、手足は普通の人間と同じ。ただ、異常なくらい細く、裸足だ。
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