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「・・・なんで、ナイフなんか持ってるんですか?」
「これ?」男はちょっと意外そうだった。「これね、まあ、正確に言うとナイフじゃないのよ」
思考が正常に戻り始め、やっと違和感を感じて取れた。
じゃないのよ?今この人、そう言ったよね。
それにさっきも、キャーーって言ってたような。
男の、足から頭へと視線を巡らせた。
スニーカー。パンツ。暗くて色まではよくわからないけど、チェック柄のシャツ。髪は短髪までいかないが、短い。
どう見ても、男だ。
「大丈夫?立てる?」もちろん、声も。
男は持っていたナイフを身体の後ろにしまうと、前屈みになり、片方の手をわたしに差し出した。
素直にその手を取る程、冷静さは失ってない。「大丈夫です。立てます」と、強気に言ったものの、足に力が入らない。
わたしは腕をバネにして、勢い良く立ち上がった。
案の定、足がもたつき前に倒れそうになる。わたしは男に抱きつくような形で、シッカリと受け止められた。
「すみません・・・」
「だから言ったでしょ?素直に甘えなさい」笑顔なのが口調でわかる。
男から離れて、気づいた。この人、大きい。
背もだが、なんだろう、全体的に。店長も背は高いが、こんなに威圧感はない。
「あの・・・」言いかけたところで、男の後ろから黒い何かがこちらに向かってくるのが見えた。
「ギャーーー!!」
「キャーーー!」
咄嗟に男にしがみついた。もしかして、さっきの彼女?
「なに!どうしたの!?」
わたしは男の身体に隠れるようにして、後ろを指差した。「何かいる!」
黒い物体が街灯に近づくにつれ、その姿形が見えてきた。
そして、ホッとした。
彼女じゃない。またしても、男の人だ。普通の。
「なんだ?どういう状況だコレは」その男の言う意味がわかり、わたしはしがみついていた腕を慌ててほどいた。
「お前な、急に走っていくなよ。何事かと思っただろうが」
「ゴメンゴメン。彼女について行く"奴ら"が見えたから、つい追いかけちゃったわ」
「それで?」
「始末したわよ」
2人の会話は理解できなかったが、2人が顔見知りだと言うことはわかった。
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