Ordinary days.

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Ordinary days.

 ベッドの中にいても冬の気配を感じるようになりだした6月、夏だろうが冬だろうが夜を越えれば朝が来るのは当たり前で、そんな当たり前を小さな欠伸1つでやり過ごし、微かに聞こえる穏やかな寝息へと視線を向けたのは、この家の主の一人であり寝息の主の伴侶であるリアム・フーバーというドイツ出身の壮年の男だった。  今はパンツ1枚だけだから余計に目立つ鍛えている身体から初対面の人達には身体が資本の仕事をしていると思われがちのリアムだが、職業はといえば規模としてはさして大きくはないクリニックに勤務するドクターだった。  趣味で鍛えている身体からは想像できない静けさでベッドから抜け出し、空いたスペースに慣性に従って転がってくる伴侶に惚けたような笑みを浮かべて髪にキスをし、起こさないように注意を払いつつベッドルームを出ると、全身に力を込めて脱力し身体に痺れを走らせて心身ともに覚醒させる。 「今日は何を食おうかな」  突き上げた右腕を左手で掴みストレッチをしながら階段を下りた後、玄関から一続きになっている庭への掃き出し窓までの広い空間をソファと本棚で区切り、その役割を果たしている本棚に飾られている自分達に縁の深い品々や人達の写真に顔を向け、その中の1つの写真立てを手に取る。
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